月明かりで告白を

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月明かりで告白を

 あの、何も話さない少年がこのカイくん? 静かな体育館に二人だけの時間が流れていた。 「だから、みんなに誘われても仲間に入らなかったの?」 「うーん、耳のこともあったけど、何もかもがどうでも良かったし、なんで自分だけこの世の中に生きてるんだろうって心を閉ざしていたから」 「そう、、、だったんだ」  十四歳の彼は、確かに今とは全く違う印象だった。かよわくて、今にも消え入りそうなくらい真っ白だった。細くて筋張った腕を立てた片足の膝に乗せて一日中、つまらなそうな顔をしていた。 「覚えてる?一番初めに柚さんが話しかけてきた言葉」 「ごめん、カイくんのことは思い出せたけど、そこまでは、、、、」 「そうだよね。〈あぁー、疲れたねぇ〉って」 「えぇー。そうだった?でも、聞こえてないでしょう?」 「うん。正確にはなんて言ったかはわからないけど、たぶん。疲れるねぇか、疲れたねぇだったと思う。そう言いながら、隣に座ったんだよ」 「うーん、そうだったかなぁ。そんな様な気もするし、、、」 「うん。そうだった。何にも言わずにただ隣に座って時々目が合うと笑ってくれた。この施設に来た時にはもう耳が聞こえなかったし、だから、言葉も何となく話さなかったから。だから、みんな気持ち悪がってたんだ。僕自身も近づくなってオーラ出してただろうし。そんなひねくれてた、僕に笑いかけてくれたのは、園長と、柚さんだけだった」 「、、、、」 「園長にはすごく感謝してる。耳が聞こえなくなった僕を色んな病院に連れていってくれたり、きっとたくさん気にかけてくれてた。時々僕の部屋で僕にもわからない手話してきたりしてさっ」  カイは、懐かしむ様な笑みを浮かべた。 「僕の耳が聞こえないのは心因性で、耳自体には異常がないってわかったのも園長のおかげ。そして柚さんは、ただ隣にいてくれた。笑いながら僕との時間を過ごしてくれた。それが僕にとっては、貴重で優しい時間だったんだ」 「それって、全然特別じゃないよねぇ。私は何もしてないというか」 「違うよ。ただ、僕だけの隣にいてくれようとしたんだ。何も聞かず。何にも話さないし、反応しない僕に飽きもせず。たまには、本読んだり、課題?やりながら、僕がどこにいても、食堂の席だったり、このホールの隅だったり、テラスの隅だったり。  周りで賑やかにしている子供達の輪から、タイミングを見ては抜けてきて、最後は帰るまでずっとそばにいてくれた」 「そうだった、、、かも。何となく気になったんだ。その時のカイくんが。すごく淋しそうで」 「うん。本当はすごく、すごく淋しかったんだと思う。けど、大声で泣けるほど幼くなくて、甘えられる人もいなかったから。ただ、自分の中で、死っていう現実を消化するしか無かった。  ある日ね、いつもの様に夕方、柚さんが隣に座ったんだ。その日は、何かのイベントで使うお菓子を小分けにしていたんだけど」 「うん、、、」  二人はいつしか、いつかのあの日の様に、ホールの隅に肩を並べて座っていた。  高い位置にある窓からちょうど月が覗き、2人の顔を白く照らしていた。 「その時、本当に。本当に久しぶりに、音が聞こえたんだ。それも、楽しげな、でもちょっと音のズレた鼻歌」 「うっ、、、、」
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