灰崎

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灰崎

「灰崎、鼻水出てんぞ」 「ん」 俺は高尾正孝(たかお まさたか)。 高1のどこにでもいる帰宅部の男子。 校舎の2階の教室で窓際の後ろから2番目の席が今の俺の席。そして、休み時間の度に俺は椅子から半分尻が落ちかけた状態で壁に寄りかかって座る羽目になっている。 なぜかと言うと半分はこの男が真横でティッシュで鼻水を拭りながら携帯をいじって今も座っているからだ。 灰崎雪斗(はいざき ゆきと)。 「今日そんな寒くないと思うぞ」 「寒い」 1つの椅子に男同士がベッタリとくっついているわけだ。友達…じゃないと思う。 そう、ただのクラスメイト。 灰崎は極度の寒がりだ。肌は白く髪の色素も薄く、体格は悪くないが歩き方が不安定でフラフラしている。 名前の通り雪のようだ。 頬杖をつきため息をついた。 身長は俺と同じ位で口数は少ないけど気が弱いわけじゃない。むしろ… 「キャッ!」 そばを通ろうとした女子が灰崎の足に引っかかり倒れかけ跪いた。 「大丈夫か?」 「ごめん、ありがと」 俺は立ち上がり手を伸ばそうとすると灰崎がそれを遮るように立った。 「大袈裟だろ、自分で立てよ」 「っ!」 その女子は一瞬固まったが体勢を整えるとキッと灰崎を睨んだ。 「めっちゃ感じ悪い」 「そりゃどーも」 ふぃっと顔を背けるとまた俺にくっついて座った。 さっきの女子は友人の元に戻るとこっちを指差して確実に怒って何か言っている。 あーあ、俺まで嫌われたな。 こいつ……。 「今のどう考えてもお前が悪いだろ」 「知らね」 「あーそうかよ。席戻れ」 するとススッと灰崎の足が椅子の下に引っ込んだ。 昔馴染みなわけではない。 1ヶ月くらい前までは目が合ったことすら無かった。 なのに突然この異常な程に懐かれたきっかけは分かっている。 チラッとまた灰崎を見ると何事も無かったかのように携帯ゲームをしている。その首には白いマフラー。 こいつは毎日の様にこのマフラーを巻いている。 灰崎が視線に気付いて目が合いそうになったが反対側にそらされた。 そばに居たがるくせに距離を置きたがる。 きっかけはたぶん、いや間違いなくあの時だろうな。
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