変身

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どうしてこうなった…? 朝、教室の中で灰崎は囲まれていた。 そばにいた子の話じゃ、灰崎からおはようと言ってきたらしい。 今までの睨みも圧もなく、以前からそうだったかのようにそれぞれと話していた。 「髪切ったんだね!似合ってる」 「ありがとう」 ありがとう!? 灰崎がありがとうを使ってる。 休みの間、席替えをしたから席も遠くなっていた。 俺はなんとなく見てはいけない気がしてそっと自分の席についた。 すぐに前の席になった稲生が話しかけてきた。 「なぁ、あいつどうしちゃったの?」 俺に顔を近付けコソコソ耳打ちしてきた。 「分かんねぇよ」 「女どもの変わり身もすげぇよな。この前まで文句とかビビってたくせに態度コロッと変えやがる」 「まぁ」 灰崎の素材がいい事は知っていた。それに愛想が良くなったらモテないはずはない。 「俺も髪型変えてみるか。そいや、お前は猫っ毛ぽいな。染めてんの?これ」 耳から襟足あたりを触られキュッと肩をすくめた。 「くすぐってぇよっ!いやこれ自前」 バンッ!!! 目の前が暗くなり俺とそいつは弾かれるように離れた。灰崎が片手を俺の机についていた。 「正孝、ちょっといい?」 圧のわりに顔は愛想笑いのままだ。 「え、今?でももう先生来るし」 「今」 しかし時間通り先生が教室に入ってきて皆が自分の席につき始めた。灰崎はチッと舌打ちすると戻った。 「今アイツ舌打ちしたよな」 「うん、したね」 なんだか面白くてクックッと2人で笑った。 「俺高尾と喋ってみたかったんだよね、今までアイツがいたから難しかったんだけどさ」 そんな風に思ってたんだ… 胸が熱くなりジンとなった。 「サンキュ」 フツーに嬉しいな。 「俺、裕貴って呼んで」 「じゃあ俺は正孝で」 「もうすぐ2年になるのに今更これってウケるよな」 「それな、まぁ今まで席近くなったことなかったしあんまり関わんなかったせいかもな」 灰崎とこうなるまで普通に過ごしてたはずが、遠い昔のようだった。 「改めてよろしくな」 それから灰崎は俺の所に来ることもなく、クラスに馴染んだ様に見えた。 女子がスマホを落とした時も拾ってやっていた。 今までじゃ有り得ないことだ。 すげぇなぁ〜。あいつ。 人って変われんだなぁ。 言ってた変わるからってこういう事だったんか。 なんだ、灰崎もやっぱりみんなと仲良くなりたかったんだな。 微笑ましく思う反面、いつもべったりくっついていた背中に違和感があった。
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