裕貴

1/1
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

裕貴

放課後、女子数人が灰崎を遊びに誘ってるのが聞こえた。 ふーん、じゃあ俺はこのまま帰るかな。 「なぁ、一緒に帰りどっか寄ってかね?」 そんな俺に裕貴が声をかけてきた。 「お!いいね、どこ行く?」 千景にメッセージを送った後、2人で話しながら教室を出ようとした。 「正孝っ!」 立ち上がった灰崎が俺を呼んだ。…が、その先はない。 「何?どうしたの?」 女の子が驚いて俺と灰崎を交互にキョロキョロしている。 あー… 俺に何か言いたいのは分かったが、先に裕貴の誘いに乗ってしまっている手前どうしようも出来ない。 灰崎を誘っても女の子達は必ずついてくる。 だから… 「…今日は裕貴と帰るから、ごめん」 なんで謝ったのか自分でも分からなかった。 頭を少し下げると教室を出て裕貴と歩いたが、数歩進むと立ち止まった。 「どした?」 「…裕貴、ごめん。また今度でいい?」 置いて行かれた子供のような灰崎の顔が目に焼き付いている。 「んー、俺はいいけど。戻んの?」 「…」 「それって結局アイツのためになんないんじゃない?」 なぜ灰崎が変わったか、裕貴は分かってるようだった。 「友達と遊ぶだけなんだからそんな真剣に考えることないじゃん。あいつもあんだけ誘われれば行くだろ」 「そう…だよな」 灰崎にも友達が必要だ。 俺以外にもそういう存在は必要だよな。 「うん、行こう」 俺は気を取り直して横に並び直した。 それから食べ歩きしながらゲーセンに行った。UFOキャッチャーで裕貴と試行錯誤して狙っていると、白いマフラーが視界に入りハッと前を見た。 向こう側で同じ学生服の知らない男が白いマフラーをしていて彼女らしき人と腕を組み楽しそうに歩いていた。 灰崎も今頃あんな風に遊んでんだろうな。 「あっ!おい、正孝ボーっとしてんなよ、落ちたじゃんかー!」 「あ!わりぃ!」 「次最後の1回だぞ、これをこうして」 操作ボタンに置いた手に裕貴の手が重なった。 灰崎の時のようなひんやり感はなく、むしろ熱い位だった。そしてゲームに夢中になっているせいか湿っていた。 あいつの手はいつも乾燥してんだよな…。 たまにささくれがあって痛そうだし。 「うぉ!ゲットー!!ほら、やるよ」 今流行りの映画キャラクターのぬいぐるみだった。 「俺これ良く知らないからいいよ」 「え!?お前いらないもんを一生懸命取ってたんか!?」 「だって裕貴欲しそうだったろ」 「だからって…お前お人好し過ぎるだろ」 いや、フツーだろ。 裕貴がガシッと肩を組んできた。 「お前やっぱ良い奴だな〜、よし!もう1回やろうぜ!ちゃんとお前が好きなやつ選べよ」 わしゃわしゃと頭を撫でられた。 良い奴か…別にそんなんじゃねぇのに。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!