氷月

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氷月

日も暮れ、裕貴とは偶然最寄り駅が一緒だった。 「また明日な!」 お互い反対方向に駅で別れた。 時間は6時半。 久々友達と遊んだ感あるな〜。 なんつーか、新鮮だった。 マンションに続く街頭の下を歩いた。 はぁっとすると息が白い。 白いもやがあがった夜空を見上げると月がほとんど欠けて細くなっていた。 ふと立ち止まり、スマホを光らせる。 親から残業で遅くなるとの連絡だけで灰崎からのメッセージはなかった。 まぁ、大丈夫ってことだな。 なんとなくwon'sの新曲の「SnowMoon」が聴きたくなりイヤフォンをつけリピート設定で流した。 このまま灰崎は人気者になって、いろんな子と知り合って、他の誰かの歌を書くようになんだろうな。 この曲も、もしかしたらあの部屋にいた女の人のための曲かもしれない。 胸がグッと締め付けられるように凄く辛くなった。 あれだな、きっと。 懐いてた子犬が手から離れる感じ。たぶんそうだ。 俺、なんやかんやずっとあいつの事考えてんだよな。 エレベーターが到着し、家の前に着き鍵をまわす。 「た〜だいま〜、って誰もいねぇか」 独り言を呟きドアを閉めようとするとガッと止まった。傘か何か挟まったかと振り返るとドアがぐいっと開いた。 「……え」 挟まっていたのは手だった。 マンションの灯りで真っ白な灰崎の無表情な顔が照らされている。 「え…おまっ…えっ!?」 俺はパニックになっていた。 え?いつのまに?…てか、どこにいた? 考え事をしながらイヤフォンで耳を塞いでいたせいか全く気付かなかった。 灰崎は真っ暗な家の中に静か入ると後ろ手にドアを閉めてガチャンと鍵をかけた。 俺は無意識に息を止めてしまっていた。 空気がピリついている。 電気をつけようとそっと壁に手を伸ばすがその手を何かが掴んだ。 ビクッ!! 灰崎がそこにいるはずなのに何も見えない。 俺は絞り出す様に声を出した。 「まさか…また外で待ってたのか?」
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