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雪斗
しかし、返答は無い。
無いが俺を見据えている事は痛い程感じていた。
「あのさ、もうこういうのはやめろって言っただろ。また風邪ひいたらどうすんだよ」
暗い中でも感じる無言の圧から逃れるように喋りが止まらない。
そのうちだんだん目も慣れてくる。
「…俺、変わった?」
灰崎はやはり俺をじっと見つめていた。
「お、おう。すげぇよ、別人みたいだ」
「見てた?」
「うん、見てた見てた」
「俺も正孝だけ見てた。ずっと」
なんとなく、フィっと目線を外した。
「そういや今日さ、裕貴が」
バンッ!!
灰崎が拳を壁に叩き付けた。
「…なんでもうあいつの事は名前呼びすんの?」
「や…特に理由は…」
上手く言葉が出ない。
声が震える。
壁に押し付けられていた手が近づいて来たのを感じ反射的にビクッと避けて身を引いた。
灰崎が人を殴ったり脅したりするのを見た事があったし、怖くないわけはない。
なぜか俺にはこういう態度はとられないと思いこんでいた。あのマフラーの日から今までは。
そんな俺に灰崎は触れる前にその場に座り込んだ。
はぁーっと重い深いため息が聞こえた。
「どうしたらいい?」
え?
俺は訳が分からず壁にもう一度手を伸ばし電気をつけた。パッと明るくなり眩しくて一瞬目を閉じたが見下ろすと灰崎の目が涙で滲んでる様に見えた。
しかしそれも一瞬ですぐパッと俯いて隠した。
まさか…
「俺っ、お前が…言うから。…なのになんでっ
なんで離れてくんだよっ」
ドクンッドクンッ…
灰崎の言いたい事が一気に伝わってブワッと顔が熱くなった。
確かに俺が言ったんだよな。
考えてみろって。
「…お前がなって欲しい俺ってこんなんじゃないのか?違ったのかよ?」
灰崎はとても疲れているように見えて、俺は返す言葉がなかった。
確かに、人当たりが良くなればなとは思った。
でもクラスメートと交流するという一般的な事を1日でこんなに疲弊する程頑張ったわけで、本当は俺のためにめちゃくちゃ無理してたんじゃんか。
髪を切る時も、
みんなと接してた時も、
どんな気持ちでいたんだろ…。
今まで他人と接してなかったのに平気なわけないだろ。
なのに、帰り俺が裕貴と…。
俺も灰崎の前に脱力したように座った。
「なんで俺なんかそんなに好きなんだよ。お前キツいだけじゃん。なんでそこまでして…っ」
たまらず俺はギュッと灰崎を抱き締めた。
凄く凄く冷えていて体温が奪われるのが分かったが、構わずに強く抱き締めた。
俺は優しくなんかない。
「ごめん、灰崎」
「雪斗」
「え?」
「雪斗って呼べ」
「え…ゆ…」
言いかけて灰崎の肩に額を乗せて唸った。
え、なんでこんなに恥ずかしいんだ!!?
他のやつは平気なのに!
「正孝」
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