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キス
しがみつくようになっていたが、スリッと灰崎の頬が俺の頬に触れた。ふわっとしたものが俺の耳のそばに吸い付くようにくっつき撫でる。
ドキッ!!
何をされているか分かると同時にちゅっ…ちゅっ…と触れるように移動してくる。
うわっ…ちょっそのまま来たらっ!
ギュッと体を固くして唇の口角辺りになるとふっと顔を背けてしまった。
「なんか違う奴の匂いがする」
「え?」
思わず灰崎の方を向いてしまった。
その瞬間、唇が重なった。
柔らかくて冷たくて優しいキスだった。
「っ!!?」
「お前に好かれるためなら何でもするから、早く教えろ」
肌は冷たいのに眼差しと吐息は物凄く熱かった。
表情は苦痛を帯びていて眉間にはしわが寄っていた。
じゃあ…なんであの時…
「あの…さ、あん時部屋にいた人誰?この前お兄さんと行った時の…」
重い口を開いた。
「あー、あれは従姉。美容師やってる」
「いっ従姉?」
「苦手なんだよ、派手なとこ。だからたまに来てもらって家で切ったりしてもらってる」
「あーーー、そう〜かぁ」
なぜか凄くホッとして、早く聞かなかったことを後悔した。灰崎が他人を家に入れるわけないもんな。
「なぁ、どうすればいい?どうしたら好きになんの?
俺のこと」
灰崎の頭の中はそのことでいっぱいのようだった。
俺は衝撃で床に落ちたイヤフォンを拾って片方を雪斗の耳に入れた。
「この曲あの時書いたのか?俺への歌であってる?」
「…当たり前だろ」
「こんなラブソングを聴かせてくれて、俺のために自分変えようとした奴にこれ以上何を求めるっていうんだよ?」
すると、するりと俺から離れた。
「…さっ…触らねぇから」
絞り出すようにポツリと言った。
え?
「もう触らねぇから、そばにいるだけでも」
俺は雪斗の腕を掴んだ。
肌のせいだと思ってんのか!?
「ばっ!!馬鹿やろ!!なんでそんなとこっ!!」
ハッとした。
俺、なんでこんなに足掻いてんだろ。
なんでこんな事言わせる必要あんの?
涙が出そうになった。
俺が本当に優しいなら早い時点で突き放した方がいいと判断してるはず。
それが出来ないならそういうことじゃんか。
伝えなきゃいけない、ちゃんと。
だってあれほどの歌詞にする位誰かに想われること、もう一生ないんじゃねぇか?それに何より雪斗のこんな必死な姿を俺以外に見せたくない。
素直にそう思ったんだ。
「俺はお前の気持ちとは違うってずっと思ってた。
でもお前の書いた誰かへの歌が俺で良かったし、最初は恥ずかしくて違和感やばかったけど今は凄く嬉しいんだ。今のキス?だって、嫌じゃなかった。
それってもう、俺も同じなんじゃねぇかなって」
「同じ…」
「俺も雪斗が好きなんじゃねぇかって」
「えっ…」
俺は雪斗の首の白いマフラーを外すと横に置いた。
「だからさ、こんなもんがなくても冬を忘れる位俺がずっと一緒にいて暖めるから、お前の甘い歌また聞かせてくれよな」
氷のような手を自分の頬にあて、にっこり笑った。
「ふはっ、やっぱ冷てぇな」
「…正孝っ」
雪斗は今までは髪に隠れて見えなかった耳を真っ赤にして満面の笑みで再び俺を抱き締めた。
「だから安心しろよ、雪斗。
お前は十分あったけぇよ」
「好きだ、正孝」
肌とは対称的な熱い愛。
「俺も。雪斗が好きだよ」
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