第2話 西園寺 波瑠

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第2話 西園寺 波瑠

 西園寺邸はとても豪華で階段も手すりに彫刻がほどこされていて絨毯が敷き詰められていた。  階段はウォールナットの木かな? 少しダークな色調で格調高く見えた。ロココ調みたいに見えるけどわからないや……と、僕の少ない情報の中からそう考えた。 「柚月様、こちらです」    執事の仙道に案内され、部屋の中を覗いてみるとそこにはキングサイズの天蓋付きベッドに、本棚付きの彫刻が施された学習机に、テーブル、座り心地の良さそうなソファーも置かれていた。そして本棚には僕の教科書なども入れてあった。 「凄いな。すっごく素敵です。こんな豪華なお部屋僕なんかが使ってもいいんですか?」   少し不安になり身体も小さく縮こまる。 「もちろんですよ。旦那様の大親友のお子様ですし、波留様の幼なじみでもいらっしゃいます。旦那様からもゆったり過ごしてもらうようにと言付かっておりますよ」    仙道さんは僕が安心出来るよう優しそうな声でそう言った。  そして改めて部屋を見てみると左側一帯が全部クローゼットとなっているようで執事の仙道さんが中を開けて見せてくれる。 「こちらの方に服などは置かせていただきました」 「仙道さん、ありがとうございます」  お礼を言うと仙道さんは一礼し、 「それでは夕食時にお呼びしますのでそれまではお部屋でごゆっくりお過ごし下さい」  そう言って部屋を去った。  一人になり持参してきた手荷物などを整理していたら段々眠くなってきたので少しベッドで横になることにした。  夢の中で楽しくお茶を飲んでいた所で急に、身体をゆさゆさと揺さぶられ僕を呼ぶ声がした。 「おい、柚月、柚月」 「ふぇっ?」    何だろう? でも眠い。寝かせよ……。   それでも、なかなか起きなかった僕を誰かが今度はもっと強く揺すった。 「柚月、いい加減に起きろよ。夕食の時間だ」 「……え? 誰なの」    まだボンヤリとしている僕を怪訝な顔で見下ろす一人の青年。見た目は僕と同じか少し年上にも見える。そして漆黒の艶やかな黒髪をしていた。  黒曜石のように煌めくその大きな切れ長の瞳が僕をじっと見つめている。そう思うと僕はその青年にたちまち魅力され、真っ赤になった。 「俺か? 俺は西園寺波留(さいおんじ はる)だ」 「えっ。波留くんなの? 昔一緒に遊んだよね。こんなイケメンになっていたんだ」    僕はすっかり嬉しくなりはしゃいだ声でそう言ったが、波瑠くんは僕の方を見て一瞬だけ表情を緩めたが、またすぐに硬い冷たい表情へと戻りドアの方へ歩き出す。 「行くぞ」    慌てて僕も飛び起きて後を追いかける。食堂は一階にあるらしく波留は階段を降りていった。波留の歩幅の方が大きいから追いつくのも大変だ。    食堂の前には黒いメイド服を来たお手伝いさんがいた。そのお手伝いさんがドアを開けてくれて中へと入る。    中には大きな特大の豪華な白いテーブルがひとつあった。内装もその白いテーブルとぴったりのホワイトで統一された洗練された空間。そこに二人分の食事が用意されていた。 「わぁ。凄い。ここも素敵だね。それに食事もすごくおいしそう」    感激しながら声を高くし語る。上手の方に波留が座りその手前の席に着席した。 「そうだ柚月、学校では俺にあんまりなれなれしくするなよ。今までは通信科だったからあまり学校にはなれていないと聞くから案内はしてやるが……」   そっけなくそう言われ、心の中がチクンと痛くなった。仲良くしたいと思ったのは僕だけだったみたい。見えていた景色もたちまち色褪せ、モノクロに変わってしまったように感じた。  そして、さっきまではとてもおいしそうに見えた食事も食欲が全くなくなってしまい喉を通らない。    結局僕はほとんど食事をとることは出来なかった。 「柚月、ちゃんと食べないと後でお腹空くんじゃないか?」  僕の少ない食事量を気にして波瑠くんが声をかけてくれたが、それ以上は食べる気になれなかった。 夕食が済み波瑠くんが席を立つ。 「柚月、明日は朝七時に朝食だ。食べ終わって、八時になったら学校へいくからな」 「うん」   僕は力なくそう返事した。
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