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第3話 登校
波留に言われた通りの時刻に屋敷の玄関に行くと執事の仙道さんから運転手さんを紹介された。
「これから柚月様の送迎をすることになる運転手の矢田です」
矢田さんは短めの白髪混じりの髪をしていて五十代後半ぐらいのまじめそうな方に見えた。
「矢田でございます。普段は波留様の送迎をメインでさせて頂いておりますが、本日からは柚月さまの送迎もさせて頂きますのでよろしくお願いします」
丁寧な挨拶をし頭を下げる。僕も慌ててお辞儀をし、
「矢田さん、よろしくお願いします」
と頼んだ。怖そうな人じゃなくて良かったな。
ちょうど波留も来たようで一緒に車に乗り込むと隣りにある学園に向かった。道中波留は一言もしゃべらず黙ったままで短い距離のはずだったのに到着するまでとても長く感じてしまった。
学園に到着すると波留はみんなから憧れられているようでみんなの注目を集めていた。当然同じ車から出てきた僕にもみんなの感心が集まっていく。痛い視線をかき分けながら校舎に向かうのだが教室や職員室などの位置が分からないのでしょうがなく波留に付いていくしかない。
そのまま歩いていると、薄いピンク色に髪を染めたかわいく見える顔立ちの背の低い男子が近寄って来た。視線はまず波留に向けられその後で僕の方をちらっと見る目が刺すように痛い。
「波留くん、おはよう。今日もいつも通りの時間に登校だね。ところで隣りにいる子って何なの?」
「紅、おはよう。こいつは俺の父の親友の子供で昨日からうちで暮らしてる。この学園の通信科にいたらしいが今日付けで通学する普通科に編入になったんだよ。この学校のことよく知らないみたいだから今から職員室まで連れて行こうと思っているところだ」
紅と呼ばれた子の表情がキッと険しくなった。きっと波留くんのことが好きなんだろうと思った。波留くんかっこいいもんね。
「八重洲紅です。波留くんとは幼稚部の時からずうっと一緒だよ」
紅くんは波留くんに腕を絡ませ僕に見せつけるように話したのだが、波留くんはうっとおしそうな顔で紅くんの腕を払いのけた。
「芦屋柚希です。波留くんの家からこの学校に行くことになりました。よろしくお願いします」
「ふうん」
棘のある視線で見つめられ居心地が悪かった。早くこの場から立ち去りたくなり、
「波留くん、職員室に連れていってほしい」
「そうだな。こっちだ、着いてこい」
ホッとしながら波留くんに連れられて職員室へと向かった。波留くんとは職員室の前で別れた。
ドアをノックし、
「失礼します。芦屋柚月です」
職員室の中から、「入って」と聞こえたのでガラッとドアを開け、中へ入った。
中には沢山の先生がいたが、その中から手が上がり、「こっち、こっち」と呼ばれそちらへ移動する。
「俺は君のクラスの担任の沢田だ。芦屋くんは三年一組だよ」
沢田先生は三十代ぐらいの見た目で優しそうな茶色の目と髪をしている。
「沢田先生よろしくお願いします。あの、先生にお願いがあるんですが…………僕の病気のことみんなには秘密にしてほしいんです。病気のことがみんなにバレると気を使われて普通の学園生活が出来なくなっちゃうと思うんです。僕はずっとひきこもりでここでも通信科にいました。もうすぐ死ぬなら普通の学園生活をして思い出を作りたいんです。お願いします」
最後の方は涙混じりになってしまったけど、沢田先生には僕の気持ちをちゃんと伝えることが出来た。
「うーん…………みんなにはちゃんと話しておいた方がみんなのサポートも受けれて安心だと思うんだけどな。だけど、そういう理由があるのなら分かった! 芦屋の希望通りにしてやろう。ただこの学園の養護教諭の難波先生にはちゃんと病気のことを話しておきなさい。保健室はB棟の一階にあるから後で行くんだ」
「わあ、沢田先生ありがとうございます。後で必ず保健室へ行きます」
先生が話の分かる人で良かった。これで普通の学園生活出来そうな気がする。だけど、まずはクラスになじめるかどうかだよね……。僕は今まで不登校だったからすごく不安だな。沢田先生に連れられて僕は三年一組へと歩きだした。
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