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第4話 三年一組
クラスの前に到着すると、
「呼ぶまでここで待っていてくれるか」
先生にそう言われてる。
「わかりました」
そして先生に呼ばれるまで僕はクラスの前でもじもじとして落ち着かない。クラスでいじめられたらどうしよう……。そんな風に不安が広がっていく。しばらくすると先生の声で入室を促す声がした。
「転入生を紹介するから……じゃあ、入って」
思い足取りでゆっくりとドアを開ける。クラス全員が僕を見ている。無言の幾多の視線が怖く感じたが思い切ってクラスに入った。
「芦屋柚月くん、今日からこのクラスで学びます。仲良くするように。芦屋くん、一言挨拶して」
「芦屋柚月です。ここの通信科で学んでいましたがやはり通学して学びたいと思い転入してきました。よろしくお願いします」
小さな声でなんとか挨拶の言葉を述べる。緊張のしすぎで心臓の鼓動が早くなるのがわかった。
えーっ。転入生なんかかわいくない? などと話す声が聞こえてくる。
「あ、芦屋くんだよね、西園寺くんと朝一緒に登校していたの」
「嘘、西園寺くんと一緒に来たのはなんで……」
クラスの誰かがそう言い、ざわめきが大きくなった。
その時、椅子のガタン! という音がし、波留が立ち上がった。
「芦屋柚月は今俺の家でわけあって暮らしているから。騒ぐなよ。父から頼まれているし、この学校のことも教えてやるつもりだ」
冷淡ともとれるような低い声でそれだけ言うと着席した。
「そういうことだ。みんなこのことは詮索無用だ」
先生もそう言ったことで騒ぎはいったん収まったけれど、その後僕にわざわざ話しかけてくる生徒は皆無だった。だから分からないことがあれば波留くんに聞くことに自然となっていった。
「波留くん、図書室ってどこかな? 僕本が好きだから行ってみたいんだけど」
ある日の放課後波留くんに聞いてみた。
「……連れて行ってやる」
若干だるそうな雰囲気を見せるが僕の要求をのんで図書室へと案内してくれた。波留くんの歩調に合わせて歩くのはちょっと大変だったけれど。三年一組の教室がある棟とは違い第三棟まで移動するとその建物の一階は全て図書室になっているらしく開放感が抜群で広々としていてまるで図書館のようだった。
「わあ、すごいね。こんなに広い図書室だとは思わなかったよ」
「そうだな。俺はあんまり来たことがないが。帰りはちゃんと運転手に電話をして迎えに来てもらえ」
ぶっきらぼうにそう言うと波留くんは図書室を出ていった。
僕の頼みをめんどくさそうにはするけどいつもちゃんと聞いてくれるんだよね。今日も図書室まで案内してくれたし。
波留くんが帰ったので僕は自分の好きな小説が置いてあるか探しにいくことにした。今は急遽西園寺のお屋敷に居候させてもらうことになったからあんまり本を持って来なかったんだよね。だから新しい本が読みたくて仕方なかった。
お目当ての本が見つかり貸し出しの手続きを終えた僕は読書を始めいつのまにか椅子に座ったまま眠っていた。
目が覚めると僕の肩には図書室の備品のブランケットが掛けられていた。時計を確認するともう六時を回っていて慌ててブランケットを所定の位置へと戻す。部屋には図書委員も他の生徒ももう誰もおらず僕一人だけだった。
あのブランケット誰がかけてくれたんだろう。
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