41人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話 学ランと波瑠
図書室は僕のお気に入りスポットとなり毎日放課後は図書室で過ごすようになった。
今日は何の本にしようかな。ここの図書室は新刊の本もたくさんあっていつもどれを読むのかを悩んでしまうぐらいある。そしていつも通り本を一冊選び毎回一番端にある席に座る。ここは他のテーブルや図書委員のいるカウンターからも直接見えない位置にあり落ち着いて読書が出来るんだ。
本が大好きなのにいつも読んでいる最中に眠くなってしまう。睡眠薬でも飲んでしまったかのように。 あれから何度も図書室へは来ていてその度に眠ってしまっているけれど、いつも誰かがブランケットを肩に掛けてくれている。
今日こそは絶対に寝ないぞと意気込むが結局睡魔には勝てずにこくりこくりと船を漕ぐように体を揺らし眠ってしまった。
「はっ!」
また眠ってしまった。慌てて目をこすり辺りを見渡すが誰もいない。僕の肩にあったのはいつものブランケットではなくこの学校の白い学ランだった。
えっ。これここの制服だよね。名札を見ると、そこには“西園寺”と書かれていた。うそっ……これ波留くんのだよね。この学校に西園寺は確か波留くんだけだったもん。胸が高鳴る。
じゃあこの学ランは……。
「波留くん!」
大きな声で思わず叫んでしまった。
「お静かに」
図書委員の人に注意された。
「すみません」
小さな声でそう誤り図書室を出た。
はあっ。やってしまった。図書室で大声なんかだしちゃ迷惑だよね。
この学校は授業時間以外は携帯電話の持ち込みが許可されている。
図書室を出て少し歩いた所で僕は西園寺家の運転手さんに電話をし迎えに来てもらった。腕に波留くんの学ランをしっかり抱えて西園寺邸に帰って来た。波留くんにちゃんとお礼言わなきゃ。放課後いつも僕の肩にブランケットを掛けてくれたのは波留くんなんだ。
僕は帰ってすぐに荷物を置いて波留くんの部屋をノックした。
「……はい」
気だるそうな声で返事をする。
「波留くん、柚月です。入るね」
ドアを開けて中に入ると机で勉強をしている波留くんがいた。
僕は意を決して話しかける。
「あの、これ波留くんのだよね。どうもありがとう。もしかして図書室でブランケットを掛けてくれたのも波留くんなの?」
波留くんは眉をぎゅっと寄せてはあーーっと大きく息を吐き出した。
「いつもそんなことをするはずがないだろう。今日たまたま図書室に行ったら柚月が寝ていて寒そうに肩を動かしていたから掛けてやっただけだ。勘違いするなよ。勉強するから出てってくれ」
「そっか……勘違いしちゃってごめんね」
僕は学ランをテーブルの上に置きそのまま隣の自分の部屋に駆け込んだ。
勘違いだったの? 波留くんにそう言われてなぜか悲しい気持ちになった。僕は自分でも意外なほどショックを受けたようでその日の夕食はほとんど喉を通らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!