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第7話 バスケットボール
今日から体育でバスケットボールをすることになった。僕は不登校が長かった事、そして運動神経は全くと言っていいほどない……だから授業が憂鬱で仕方ない。
更衣室に一人で向かい着替えを黙々と済ませ体育館に行くともうクラス全員が揃っていて仲の良い者通しで談笑している。僕は友達がいないし、波留くんとは学校では話さないようにしているからこの時間が苦痛だった。早く先生来ないかな。
授業が始まり簡単なルール説明の後、ドリブル練習やシュートの練習が始まったのだが。僕はダントツで下手くそだった。波留くんを見ると、ドリブルのスピードが早く身のこなしも上手い。シュートは全部ゴールに吸い込まれていくし、流石だなと思った。
その様子を見つめていると、八重洲くんが、
「流石、バスケ部のエース!」
と、うっとりしながら波留くんを見つめ、他の生徒もそれに同調し、口々に褒め称えた。
波留くんはやっぱり凄いな。他のみんなも僕より上手だし、頑張らなきゃ。そのうちグループを分けて試合をするはずだし。同じチームの足手まといにはなるべくなりたくないもんね。
そう思ってその後の授業も頑張って参加した。だけど本当は痛みを押して授業に参加していたから思うように体が動かない。授業が始まってからちょっと胃が痛いなと思っていたけれど、さっきより痛みもひどいし、目眩もする…………。
急に目の前が真っ暗になって僕は床に崩れ落ちた。すると僕の方に誰かが走ってきた。先生かな? そう思ったけれど、それは波留くんだった。
「あれ? 波留くん……」
気分が悪すぎて頭がしっかり働かない。
「大丈夫か?」
その問いかけに答えることが出来ずにいると、
「先生。俺、保健委員なので芦屋を保健室に連れて行きます」
波留くんは僕を抱え立ちあがると、周りの生徒がざわざわと騒ぎ立てる声がした。西園寺くんに迷惑でしょとか、西園寺くんに僕も連れて行ってほしいだのと言い、その場は騒然となった。
「分かった。保健室に連れていってくれ。他のやつも騒ぐな、続きやるぞ」
先生の言葉を聞いた波留くんはそのまま僕を抱いて保健室に向かってくれた。
波留くんは軽いとはいえ男である僕を抱えてもグラついたりすることなく安定した足取りだった。支える腕も胸も筋肉がしっかり付いていることが分かる。僕を抱く腕や手も大きくて男らしい。そのことに気付いて少し赤面してしまった。
体育館から保健室までは結構な距離があったのに波留くんは何でもないように疲れた様子も見せなかった。
「失礼します。体育の授業中に芦屋柚月くんが倒れたので連れてきました」
中にいた難波先生がベッドに寝かせるように誘導した。波留くんが僕をベッドにゆっくりと寝かせて、
「最近体調が悪いんじゃないか? 父に診てもらったらどうだ」
と、心配するような目つきでそう言った。
「波留くん、大丈夫だよ。最近あんまり眠れないからちょっと気分が悪くなってしまっただけだよ。ここまで運んでくれてどうもありがとう」
まだ僕をじっと見つめ疑っているような目をしていたが、
「難波先生、柚月をよろしくお願いします」
そうして波留くんは授業に戻って行く。その後ろ姿を見て僕は少し心に寂しさを感じた。
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