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第9話 美術準備室2
「う、うーーん」
あれ、ここどこだ? 絵の具の匂いや粘土の匂いがするな……ということは美術準備室の更に奥の部屋なのか。ぼーっとする頭でそんなことを考えているとすぐ目の前に亀山先生の顔が見えた。
「えっ。せ、先生やめて」
亀山先生は僕に顔をぐっと寄せてキスしようとしてきた。僕の頭はパニック寸前だった。
すると、そこにパシャ、パシャッというシャッターを切るような音とカメラのフラッシュが光った。
「えっ?」
「西園寺何をする!」
亀山先生は怒気を強めたような声でそう言った。
波留くんは先生の腕を掴んで部屋の入り口付近へ投げ飛ばす。
「それは亀山先生の方ではありませんか。生徒に睡眠薬を飲ませて無理矢理キスをしようとするなんて最低な行為ではありませんか?」
吐き捨てるようにそう言いながら亀山先生を睨んだ。「無理矢理じゃないし、キスなんてしてないぞ」
はあーーーっ。波留くんは大きくため息を付くとさっき撮影した画像を亀山先生の方へ見せつけた。
「へぇーっ。この写真ではキスしているように見えますが……あなたのような教師はこの高校には相応しくありません。即刻この学校をお辞め下さい」
「何だと!」
「今日中にお辞めいただけるのであれば退職金もお支払いしましょう。このまま居座るというのならこの写真、学校や父にも見せますが。俺の父が誰であるかはご存じでしたよね」
「うぬぬ……お前は西園寺院長の息子だったな。分かった。辞めるからあの写真を学校に見せるのだけはかんべんしてくれ」
亀山先生はそう言って部屋から出て行った。
その姿を見届けると波留くんは僕を抱き締めた。「無事で良かった……もうあいつはこの学校からいなくなるから」
「うん、ありがとう。助けてくれて」
僕は波留くんが何故僕を抱き締めたのかその理由については頭がまだぼーっとしていてその時は考えられないでいた。
そして次の日、亀山先生が急に退職されたことが学校で発表されたのだが人望のなさで誰もそれを悲しんだり心配をする生徒はいなかった。
* * *
亀山先生がいなくなった翌週。
「よし、じゃあ今から修学旅行の班決めをするぞ。その班は日中行動するグループで部屋も一緒だからな。よく考えて決めるように」
僕は友達もいないしどうしよう。人数の少ないグループに入れられちゃうのかな。落ち着かなくて体をもじもじさせながらみんなの様子をじっと見ていた。すると、
「先生、俺は芦屋と同じ班になります」
波留くんがそう宣言した。えっ。僕と一緒でいいの? もしかして一緒に住んでいるし、西園寺院長から何か言われたからなんだろうか。だけど、どういう理由だとしても僕は嬉しいよ。
「芦屋もそれでいいのか?」
「はい」
小さくそう言うと、先生は黒板の一班の欄に波留くんと僕の名前を書いた。
「ここにそれぞれ書いて行ってくれ。席を立って話し合っていいぞ」
がたん、がたんと椅子の音がし、みんなそれぞれの仲がいいメンバー同士で話し合いをしている。そして一班は波留の親友の東雲隆二と八重洲紅、紅の親友である能登健の五名に決定した。
やったー。修学旅行って高校生らしい行事だよね。中学の時は行けなかったし、今回は緊張するけど波留くんと班も部屋も同じだからとても楽しみだな。僕は修学旅行に期待し、胸を膨らませた。
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