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第1話 余命宣告
僕は芦屋柚月。西園寺医大附属高校の通信科の三年生だ。通学する普通科ではなく通信科を選んだのは、日本人らしくない茶色い髪と碧の瞳のせいでよくいじめられ、ずっと不登校だったからだ。僕はこの色が好きじゃない。みんなと同じが良かった。そしたらいじめられずに済んだはずだ。
今日は最近胃の痛みが続いていたから父の親友でもある西園寺雅貴院長がいる西園寺医大病院を受診した。前回の検査結果を聞きにきたのだ。僕はただの胃炎だと思うけどね。
「柚月君……君の病名はね、胃がんなんだよ。進行性の胃がんで若いと尚更進むのが早くてね。余命は半年だ」
驚くと共に大きな衝撃を受けた。まさかこの僕が……まだやりたい事何一つ実現していないのに。
「えっ。それって、あと半年の命ってことなんですか?」
「残念だけどその可能性が高い。残り少ない時間好きなこと、やりたいことに取り組んだほうがいいんじゃないか」
西園寺先生が僕の顔を見ながら優しく声をかけてくれるけど、突然の宣告に僕の頭は真っ白になった。これからどうしたらいい? 考えても心が混乱して何をすべきか分からなかった。
しばらく何にも言葉が出て来ない。あんな事言われたらみんなもそうなると思う。
「柚月君、確かうちの高校の通信科に通っていたな。どうだろう? 普通科に行ってみないか。息子の波瑠も柚月君と同じ学年だ。覚えているかい?」
「はい、昔一緒に遊んだ事は覚えてますけど、小学生の時に引っ越してからは全然合ってません……」
昔の記憶を呼び起こしながら波瑠くんの今の姿を想像してみたけど全然頭に浮かんで来なかった。離れていた機会が長かったからかな。
僕は引っ越し先の小学校でいじめにあってしまった。そしてそれ以来不登校だ。高校進学時にまたこの街に戻ってきたけれど普通に通学するのは怖かったから西園寺医大附属高校の通信科を選んだんだ。
本当に生命が残り少ないのなら。死ぬかもしれないならそれまでに胸が焦がれるほどの恋がしてみたい。それにもう一度普通の学生生活を取り戻したいそう思った。
「西園寺先生、僕もう一度学校に行ってみたいです」
「それなら、うちに来なさい。柚月君の家は学校から少し遠いだろう。うちからならすぐだし、君のお父さんと私は親友だからね、遠慮は要らないよ」
西園寺先生からの思わぬ提案に驚いた。だけどこれはありがたいな。
「西園寺先生、お願いしてもいいでしょうか。あと、波瑠君には僕の病気の事は言わないでほしいんです。普通の学生生活を送りたいから」
西園寺先生の目をじっと見つめて真剣にお願いすると先生はうんうんと、頷いた。
「分かったよ。じゃあすぐに越して来なさい。待っているからね」
* * *
あの後すぐに先生は遠方で暮らす両親に僕の希望を伝えてくれ西園寺のお屋敷で暮らす事になったんだ。そして今からその屋敷に入る所なんだけど、なんか大きくない?
門に入ってから大分進んだけれど……僕の記憶よりもだいぶん屋敷が大きくてびっくりだった。僕の家もお金持ちだと思うけどここは桁違いだな。
「芦屋様、着きました!」
運転手さんの声で我に返った。やっと到着したんだ。あんまりにも広くてぼーっとしちゃったな。
黒塗りの高級車から降りると、屋敷から初老の男性が近寄ってくる。白髪の混じった優しいそうな顔立ち……あれ? 僕、この人知ってるかも。
「柚月様、いらっしゃいませ。執事の仙道と申します。旦那様からここでは自宅と思って過ごしていただく様にと仰せ使っております。どうぞゆったりとお過ごし下さい。何か足りない物がありましたらおっしゃって下さい」
「仙道さん、よろしくお願いします。僕仙道さんの事なんとなく覚えますよ」
そう言うと、仙道さんは目を細めて、
「嬉しゅうございます。本当に大きくなられて」
と、喜んでくれた。
「柚月様のお部屋は二階の波瑠様の隣になります。こちらへどうぞ」
そして僕は仙道さんに案内され、西園寺家の二階へと向かった。
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