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それから加奈は、週に一度の頻度で図書室に来るようになった。
沢山小説を読んでおり柔軟に対応できる春木が基本的に加奈の話を聞きとり、それに受け答えをするみたいな流れで喋っていた。
加奈が転校したことで図書室で二人きりで喋る楽しい生活は一か月しか続かなかったが、春木にとってその頃の思い出は、高校二年の今となっても宝物である。
週に一度、練習が休みなのにも関わらず図書室に来てくれたこと。
映画化されているような、有名な小説についてばかり話し合ったこと。
彼女の行動の真意に気付いていなかったころこそあの頃の春木は幸せだった——自分の抱いていた感情に気付いていなかったことも同じだ。
一方で、なぜ彼女が図書室に足を運んでいたのかが、今の春木には分かっている。
春木は鍵をつけている勉強机の引き出しを開けた。
中にあるのは、一枚の手紙。
あの頃に思いを馳せる。
そして、意味もなく思い出した。
強いことで有名だったバレーボール部が、予選敗退していたことを。
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