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「……そんなことしても、意味ないです」
「緋真……?」
考えるより先に、一歩前に出ていた。自分自身のことなのに、これ以上傍観者ではいたくなかったから。
「智美さんは傷を負ってでも伊織さんが傍にいてくれれば、満足なんですか?」
「な、なによ偉そうに……」
「もしそうなったとして、この先ずっと伊織さんを苦しめることになるし、智美さんだって一生傷を負って生きていくんですよ。絶対に耐えられない」
傷を負わせた側も負った側も、それぞれに苦悩がある。伊織さんが今までどんな思いで生きてきたかはわからないけれど、少なくとも負った側の痛みはわかる。
コンプレックスを負って生きることは、想像以上に苦しい。みんなができる、当たり前のことができなくなったり、常に後ろめたさを感じたりしながら生きていかなきゃいけないのだから。
「伊織さんが苦しむ姿が見たいんですか……? 私は嫌。好きな人には幸せでいてほしいから」
「っ……」
「もしも伊織さんが責任感だけで結婚してくれてたとしたら、私は離婚も受け入れます。私のわがままで縛りたくはないので。だから……もしそうなったら正攻法で奪ってください。こんなの、伊織さんを苦しめるだけ」
今は彼女を変に煽るよりも、寄り添って説得するのが先だ。
伊織さんも同じ気持ちなのだろうか、私を止めることはしない。ここで私を庇えば、白鷹さんが暴走しかねないと踏んでいるのだろう。
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