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「……千臣さんは、不思議な方ですね」
「? そうか?」
そうです、と千代は答えた。
「まるで何もかもを分かってはるみたいな……、神様みたいです。今回の水路ことも、元はといえば千臣さんのご提案やし」
「しかし水凪殿の力がなければ敵わない術(すべ)だろう?」
「それはそうなんですけど……、郷の人たちは兎に角神様をお迎えできただけで喜んでいたので、神さまのお力を拝借することまで頭が回っていませんでした。それだけ郷にとっては念願のご降臨なのですが、ご降臨頂いたことだけで頭がいっぱいになってしもうてた。そう思うと、千臣さんは郷の人じゃあらへんから冷静なご意見を言って頂けたんやと思います」
ホンマにありがとうございます。
千代の言葉に、役に立てたようで良かった、と千臣が安心したように微笑んだ。
見ず知らずの土地で、怪我を負った所為で旅先の知らない家に逗留しなければいけなかった心細さは、千代には分からない。頼る者が自分一人というのは、かなり心細いのではないかと思う。その中で、千代の言葉にこの郷での居場所を見つけてくれたのなら嬉しい。それとも旅をする時点で、そういう弱い心は持ち合わせてないのだろうか。
「千臣さん、祖母に旅の目的を聞かれたときに、求められる土地で、求められることをする為に旅してるっていうてはったやないですか。今回のことも、そうなんですか?」
「まあ、そうだな。郷の人たちはそもそも水路を作ることを諦めてたから、水凪殿が居るのに治水の案が出てこなかったわけだ。長年水に困っていたところに龍神が居りてきて、喜びに沸いてばかりのような気がした。神は願われなければ益をもたらさない。千代も神に祈るのだろう? 願いが届けられるから、神はその力を発揮する。神の行いの源は人の願いだ」
そうなのか。神さまは何でもしてくれる存在かと思ったら、そうではなかったのだ。では、千代が神降ろしで人生を失うことを恐れたから、水凪は千代に乗り移らなかったのだろうか。幼い頃から何度も絶望した神さまのお迎え。それがこんなにとんとん拍子にいいことずくめで進むなんて、去年の千代に教えたらどれだけびっくりすることだろう。水凪の降臨以来、千代の胸のつかえがどんどん取れていく。千代に未来をくれた、とても慈悲深い神さまに対して抱いていた誤解を、千代はそっと吐露した。
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