拝啓、元彼へ

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 高校の頃付き合っていた大好きだった元彼が結婚した。  それを周りに話すと、みんな口を揃えて美結(みゆ)に尋ねる。なんで連絡をとってなかった彼の近況報告が分かったのか、と。答えは簡単だ___。  ことの発端は、美結の働くブライダル系の動画を専門とする動画制作会社に来た依頼だった。  営業マンが受け取ってきた顧客情報の名前を見て美結はすぐにハッとした。  信原航  その名前を見た瞬間、体中に衝撃が走った。 「この人…」 「え?野田さんの知り合い?」  思わず声を出した美結に営業マンの米倉は不思議そうに首を傾げた。  そりゃそうなるだろう。写真ではなく名前で反応したのだから。  でも、本当のことを話せる訳もなくて美結は首を左右に振った。 「専門学校の時に似たよう名前の同級生がいたので懐かしくなっちゃって」  米倉は咄嗟に嘘を誤魔化した美結に一瞬怪訝そうな表情を浮かべたがすぐに笑みを浮かべて「じゃあ、よろしくね」と言ってその場を去っていった。  米倉がいなくなり作業をするパソコンの音だけがひたすら鳴り続ける空間で美結は暫く突っ立っていた。  できれば写真のデータを見たくなかった。航の彼女…いや奥さんの顔を見たくなかった。  BGMだって他のカップルにつけている定番のラブソングではなくて失恋ソングや浮気の曲をかけてやりたいと思った。  そう思うくらい美結は自分を冷めたと言う理由で振った航のことが忘れられなかった。それくらい好きだった。今も昔も彼が大好きだった。  美結が初めて写真のデータを見ることができたのは、その日の夜のことだった。  人が少なくなった仕事部屋で初めて見た写真のデータには美結の知ってる彼より少し成長した航の姿が写っていた。そして、そんな彼の隣には綺麗な女の人が写っていた。  笑顔で映るプリクラ。旅行の写真。オシャレな飲食店。そして、手を繋ぐ2人の写真。  付き合っていた頃、航の隣に立っていたのは美結だった。彼と手を繋いでいいのも喧嘩していいのも一緒にご飯を食べていいのも全部美結だった。彼に「好き」と言ってもらえるのも美結だけだった。  あの頃は、このままずっと一緒にいたいと思っていた。だから、門限だって何度も破ったし親に内緒で旅行にも行った。デートも毎週のようにした。  でも、いつからか見ていた未来が変わってきてしまった。  別れた時、航は美結に「冷めた」と言った。つまり、彼とはそこまでの関係だったのだと大人になった今は思う。  それでも諦めきれないのはきっとまだ航のことが好きだからなのだろう。  美結は椅子に腰をかけると預かった写真のデータをパソコンに読み込んだ。  この動画を作るまでは、航を好きな自分でいよう。この動画を作っている間は高校生だったあの頃みたいに彼に恋をしていよう。でも、この動画を作り終わったらもう彼は奥さんのものだ。  その時にかける言葉「ありがとう」じゃなくて「さよなら」だ。  これは、もう二度と交わることのない元彼へ元カノから送る最後のラブレター。
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