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出所後に迎えに行くという約束をして。
だが、明生が刑期を過ごしている間に、風香を本当の娘のように思うようになった健一夫婦は風香を連れて逃走したのだ。金は風香を吉村夫婦の実子とするため出生届け、戸籍の改ざんを行うために使い込んだ。
全ては、風香という家族が欲しかったからだ。
「お前が使い込んだ金を返してもらう間だけでも、親子に戻れたらって、思えたんだが。連れて行くことはできないみたいだな」
明生は健一に笑いかける。その目には涙が溜まっていた。
健一は、明生の言葉に首を横に振る。
健一が風香に抱いている気持ちも本物だった。
「すみません……」
風香は健一にとってかけがえのない存在になっていた。
「健一、金の件はチャラにしてやる。だから、死ぬその瞬間まで演じろ、風香の父親をな」
明生は健一の顔を撫でる。
冷徹なヒットマンの手が温かく感じられた。
健一は、明生の目を見つめる。
そして、小さくうなずく。
そこに風香が帰って来て、明生に告げる。
「救急車と警察を呼びました。お父ちゃん、すぐに救急車が来るからね」
明生は、風香が健一のことを父親と呼ぶのを見て涙が出る。本当の父親なのに、それを名乗ることができない悔しさからだった。
やがて、サイレンの音が近づいて来る。
「健一。俺は行くよ」
そう言って立ち上がろうとする明生を風香は止めた。
「一緒に行かないのですか?」
明生は鼻で笑う。
「警察が嫌いでね」
そう言って、明生は立ち上がると、風香は言った。
「あの。おじさん、ありがとうございます」
その言葉に健一は、悲しそうな顔をする。
ふと思いつく。
「……風香。その人はね、父ちゃんの知り合いで、《おとう》って言うんだ。だから、ちゃんとお礼をいいなさい」
健一は風香に言う。
風香は慌てて、立ち上がり頭を下げて言った。
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