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序章
ー僕とあいつの関係はまるでよくある三文小説のようだった。
生真面目な委員長と不良少年。水と油。相容れない関係だったはずなのに、ふとした拍子に気になる間柄になり、二人は急速に惹かれ合う。
どこにでもあるような、使い古されたストーリー。
「…馬鹿馬鹿しい」
パソコンの液晶画面で点滅していたカーソルが埋めていた文字を一気に消し去っていく。
まっさらになる画面の明るさが、白々しく僕を照らした。
「クソッ」
ここのところ何もかもがうまくいかない。
それは多分、もう何度も繰り返している愚行のせいだ。
寝転がり、スマホを手に取った。
SNSのアプリ、その青いアイコンに触れる。
【友達かも?】という欄には様々な名前が並んでいた。友達の友達は友達という謎の理論に基づいてなのか、知らない名前も散見する中、たった一つの名前が僕の目に映る。
加賀屋大我
名前を見た瞬間に全身の血が熱くなるような錯覚を覚えた。過去の記憶がめまぐるしく頭を駆け巡り、ちょっと吐き気を催すほどに僕は動揺してしまっていた。
アイコンの写真は間違いなく大我だ。
見たい気持ちと見たくない気持ちが交錯した。
しかし見ないという選択肢は取れなかった。
プロフィールには出身校や住まいなどのステータスが表示されている。写真が何枚も並び、そこには止まったままだった彼との時間のその後が映し出されている。
嬉しくはあった。
幸せそうに笑っていたから。
でも、同時に疎ましくもあった。
どうして、そんな顔して笑っていられるんだ。
そんなふうに思ってしまったから。
だって僕はもうずっと長いこと、そんな風には笑えていない。
「こんなもの、見つけなきゃよかった」
ため息は止まらないのに、僕は画面のスクロールを続けている。きっと、無意識に探していたのだと思う。目的の項目を発見した途端、案の定僕の指はぴたりと動きを止めた。
【交際ステータス:未婚】
その文字の羅列に心の底から安堵している自分がいた。こういう時、僕は自分の知らない奥深くにまで根付いている大我の存在の大きさを思い知らされることになる。
まったく嫌気がさす。
画面から目を逸らそうと思ったが、それも出来ず、僕は結局また立ち止まってしまう。
視線の先に、少し濃い青色のボタンが映った。
【友達申請】
指がそこに伸びかけて止まる。
嫌だ、咄嗟にそう声をあげそうになる。
ずっと繰り返しているくだらない問答。
つながりを取り戻すきっかけになるなら押せばいい。簡単なことだ。僕はそれを求めている。
だけど…
「今更、友達だなんて呼べるわけない」
それは自分の感情を否定する行為に他ならない。
僕はまだ女々しくも引きずっているのだ。
何かを変える決定打も打てずに、うじうじと、過去から逃れられないまま。
「どうしたいんだ、僕は…」
鬱々とした気持ちで画面を眺めていると、急に表示が切り替わり、手の中で強く振動した。
着信を知らせる画面に、予想外の人物の名が表示されている。
驚きはしたものの、僕はとりあえず通話ボタンをタップした。
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