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Day 00 2030年12月24日
僕は厳島敏郎。中林薬品の研究員だ。神港大学の薬学部を主席で卒業。そのまま中林薬品の研究員としてヘッドハンティングされた。
僕の仕事は基本的に新薬の開発を行っている。それは難病に苦しむ患者のためであり、見知らぬウイルスに対する抑止力のためでもある。ちょっと前に世界を苦しめた疫病が発生したのは言うまでもなく、その影響でロシアと中国、そしてアメリカを巻き込んだ第三次世界大戦が巻き起こってしまった。
第三次世界大戦で失ったモノは多く、憲法上では中立国であるはずの日本も巻き込まれた。特に、僕が勤めている中林薬品では生物兵器の開発を余儀なくされた。もちろん、その生物兵器は会社にとって黒歴史だが、中林薬品では危険物として厳重に保管されている。
――その所為で大変な目に遭うとは思ってもいなかったのだが。
「ねえ、トシくん。クリスマスの予定はどう?」
「ああ、美奈子か。残念だけどその日は研究に没頭させてもらうよ」
「トシくんって、結構頭固いのね」
「研究員だからな。クリスマスも正月も関係ない」
「だよね。まあ、アタシはクリスマスも正月も楽しむけどね」
「だったら勝手にしろ。僕を巻き込むんじゃない」
と言う具合で僕の隣で話をしている研究員が金閣寺美奈子だ。一応僕の助手というポジションになっている。
「そういえば、勇人くんの姿を見ないね」
「確かに。でも、アイツなら問題ないと思う」
「なんか変な実験に手を染めてなかったらいいけど」
「実験?」
「実はね、危険物倉庫から例の生物兵器が無くなっているって噂を聞いたんだ」
「生物兵器って、まさか・・・」
「人を『人ならざるモノ』に変えるというあの生物兵器だよ。もしかしたら、それを勇人くんが何かの実験に使っているんじゃないかって」
「いくらアイツの頭が善いからって、そんな愚行は行わないだろう」
「だったらいいけど」
僕は、何となく胸騒ぎを覚えた。
そもそもの話、屋久島勇人は僕の上司である。研究員としての待遇はもちろん僕たちよりも遥かに良い。危険物の扱いも慣れているだろう。
しかし、なぜ屋久島勇人がそんなことをする必要があるのだろうか。
自分の実験のためなのか。あの生物兵器に対して何か気になることでもあったのだろうか。
当然、その辺のことは本人に聞かないと分からない。
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