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 6月。  そろそろ梅雨入りだろうか。鈍色(にびいろ)の空と、湿度の高いジメジメとした空気に、正直気分が滅入りそうだった。 「(あつ)……」  目が悪いわけではないくせに、幼なじみの忠成(ただなり)のことを意識し始めた時に、自分の気持ちを自制するためと、表情を悟られ難くするためのアイテムとしてかけ始めた伊達眼鏡。そのポジションを指先で軽く押し上げて直すと、俺は手にした鞄を持ち直した。  忠成に、必死の覚悟で積もりに積もった想いを伝えたのがこの五月のこと。  何の前触れもなく、半ば不意打ちをするように彼の唇を奪う形で()げた告白は、思いのほか好感触だったと思っていた。  だが、あれからこれといった動きもなく、()してや忠成に避けられるわけでもなく、拍子抜けするほどいつも通りの日常が続いている。  ともすると、あの日のことは俺の夢だったんじゃないかと思うほどに。  そう、あんなことさえなかったなら――。  帰宅部の俺は、このところ忠成(ただなり)を待たずに一人で帰宅することが多い。  夏の大会に向けて、テニス部所属の忠成は、連日のように結構真剣に部活に取り組んでいる。  蒸し蒸しと暑い中、本当に良く頑張ると思う。俺には絶対無理な芸当だ。  以前はよく、冷房の効いた図書室で適当な本を読んで時間をつぶしながら幼なじみの部活が終わるのを待ったりしていた俺だけど、ここ最近はそれもしていない。
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