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呼び出し
「忠成、今日、結衣ちゃんがうちに来た」
夕方、結衣ちゃんから待ち伏せをされた俺は、彼女から申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言われた。
何を謝られているのかすぐにはピンと来なかったけれど、彼女の雰囲気から何となく察した俺は、逆に幼い彼女を巻き込んでしまったことを申し訳なく思った。
「……いや、気にしないで」
敢えて前髪を掻き上げて表情が見えるようにすると、俺は努めて穏やかに微笑んでみせた。
「俺の方こそごめんね。気を揉ませて」
言いながらポンポン、と彼女の頭を撫でる。
幼い頃からそうしてきたように、二人目の兄として当然の仕草で。
俺の手に一瞬彼女がビクッとしたのを見て、本当に申し訳ないことをしたと思った。
そして同時に、可愛い妹を巻き込んだ幼なじみに対して、言いようのない怒りがこみ上げた。
――クソッ!
何度目になるか分からない舌打ちを胸の奥で噛み殺す。
結衣ちゃんの来訪で、忠成が俺の告白に対して出した答えが何となく見えた。
でも、だからって、今更そんな形でなかったことにだけはさせられない。
いや、させて、やらない。
夜。俺の部屋。
結衣ちゃんからの訪問があった後、俺は忠成を電話で呼び出した。
『用がある。時間作って俺ん家に来い』
と。
かなり強引に。有無を言わせぬ調子で。
忠成が俺を無視できないことを知っているからこその、強気な誘い。
案の定、忠成は渋々ながらもここにいる。
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