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「彼女、どうしても俺に伝えたいことがあるからって、暑い中ずっと外で待っててくれたみたいだ」
勉強机を背にして椅子に座っていた俺は、眼鏡を外して机の上に置くと、そう言って忠成を冷ややかな目で見つめた。
そうしておいて、無言で立ち上がると、未だ部屋の入り口付近に突っ立ったままの忠成に距離を詰める。
が、忠成には一瞥もくれず、彼のすぐそばを通り過ぎて、背後の扉を閉めた。
バタン、という扉の閉じる音に、忠成の肩が一瞬ビクッと跳ねる。
それを視界に収めながら、俺はまるで出口を塞ぐように扉に背を預けて立つと、後ろ手に鍵をかけた。
「へ、へぇ……そう、なんだ……」
背後に立つ俺を振り返ることなく、忠成が身体の横に所在なく垂らしたままの両手をギュッと握るようにして、何とか言葉を搾り出した。
俺は彼に聞こえるようにわざと溜息をつくと、
「お前……結衣ちゃんに、何か言っただろ」
確信を込めて、そう言った。
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