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「べ、別に、何も……っ」
視線を俺のほうに合わせないまま、忠成が壁伝いに一歩後ずさる。俺は幼なじみのその挙動不審な動きを見て、心が少しずつ凍て付いていくのを感じた。
「何もしなくてああいう風になるか」
扉から離れると、俺から距離を空けようとする忠成に迫って、逃がさないよう彼の手を掴む。
「――っ!」
途端、忠成が痛みに眉根を寄せた。思いのほか力がこもり過ぎたのかもしれないが、そう気付いていながらも、俺は力を緩めてやれない。
「お前が何をしたか分からない俺だと思うか?」
そればかりか、忠成の手を壁に押し付けるように押さえつけて、その身体をその場に縫いとめた。さらに空いたほうの手を彼の顔の真横について壁際に閉じ込めると、至近距離から幼なじみに詰め寄る。
「……だ、だって前に俺と妹、似てるかな?って聞いたら……秋連、うん……って言ったじゃんっ。……だからっ!」
今まで俺から視線を逸らすように俯いていた忠成が、キッと俺の顔を見上げるようにして睨みつけると、そう言った。
俺より10センチばかり背の低い忠成の、懸命な牽制。
悪いけど、俺はそんなのには怯んでやらない。
ばかりか、冷え冷えとする心を隠そうともせず、忠成を冷めた目で見つめ返した。いや、見つめ返したというより、睥睨したといったほうがしっくりくるかも知れない。
馬鹿なことを言う幼なじみに、あからさまにため息をつくと、
「兄妹が似てるのは当たり前だろう?」
視線だけは忠成から離さずにそう告げる。
「だ、だったらっ!」
俺に睨みつけられて一瞬気圧されたように視線を泳がせかけた忠成だったが、俺に掴まれていないほうの拳をギュッと握りしめて言い募る。
俺はそんな忠成を静かに見つめながら
「お前、俺がお前の外見だけを好きになったと思ってるのか?」
そう、問いかけた。
「……っ」
忠成は、一瞬瞳を見開いて俺のほうを見たけれど、何も言わなかった。ばかりか、視線はまたしても逸らされ、俺の問いから逃げるように俯いてしまう。
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