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俺の言葉が信じられないという風に、忠成が言葉を連ねる。恋愛感情で迫られるのは勘弁して欲しいけれど、俺に見限られるのは怖い。そんな雰囲気がまざまざと感じられて、忠成はずるい、と思った。
「……聞こえなかったのか? 帰れ、と言ったんだ」
忠成の方を見ないまま。怒っているのか悲しんでいるのか自分でも良く分からなかったけれど、心が千々に乱れて肩が震えた。
俺は我知らず、両の拳をぐっと力を入れて握っていた。
俺からの完全な拒絶に、忠成が背後で息を呑むのが分かった。
背中を向けているから見えないけれど、多分今、忠成は泣きそうな顔をしてるんだろう。
こんな状況下にあってもそんなことをつい考えてしまう俺は、相当重症だと思う。
「……秋連、ごめん。……俺、そんなつもりじゃ、なかったんだ……」
ややして、忠成が縋るような声音で一言一言区切るようにそう言った。だが、俺は敢えて無反応を貫く。
「お、俺、秋連にあんなことされて……どうしたらいいか分からなくてっ。自分のことじゃないって思って逃げ出したかったんだ……。ホント、ごめん!」
そこまで言ってから、小さな声でしゅん……としたように「自分のことばっかで、秋連や結衣の気持ち、考えていなかった」とつぶやく。
その声の感じから、俺の後ろで泣きそうになっている忠成の姿が目に浮かんできて……俺は我慢できなくなって振り返っていた。
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