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「……その、この間は俺が悪かった。あんなことするつもりじゃなかったんだ。お前が俺を受け入れてくれるまで、絶対に手なんて出すつもりはなかった……」
どういう状況であれ、俺を信じ切ってくれていた忠成を、俺は裏切ったのだ。
心底申し訳ないと思っている。
「……けど」
そこまで言って、忠成には分からない程度に、俺は唇を噛み締めた。
けど、と言って言葉を区切った俺を、忠成がどこか不安げな表情で見つめてくる。
「……お前が彼女だのなんだの言うから焦ったんだ。今、何とかしとかないと取り返しが付かなくなると思って……」
そこまで言うと、無性に恥ずかしくなって、俺は初めて忠成から目を逸らした。
こんな風に感情を吐露するのは俺らしくない気がして。
「……ね、秋連、それって……ひょっとして……ヤキモチ?」
こういうときに限って、どうしてこいつは追い討ちをかけてくるんだろうな?
「……ったり前だろっ。俺だって……嫉妬くらい、する……」
言ってて物凄く恥ずかしくなった俺は、今度こそあからさまに彼から目を逸らす。こんな情けない姿、忠成には見られたくない。
俺はくるりと踵を返すと、机に置いたままの眼鏡を手に取った。それをかけると、俺は仮面をつけたような感覚に陥って、少し冷静になれる。
眼鏡をかけただけで、さっきまでの動揺なんて嘘みたいに俺は不遜な態度になれた。
俺の豹変振りに気が付いた忠成が、思わず一歩後ずさる。
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