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序
燦々と降り注ぐ柔らかな日差しの下、猫と老婆と園児が二人、心地良さそうに日光浴を楽しんでいる――。
「ばあちゃん、ばあちゃん」
そう言っては嬉しそうに老婦の顔を見上げながら、他愛のない質問を矢継ぎ早に投げ掛ける男の子。
「アレはなに? こっちのは?」
庭に咲き乱れる花を指差す小さな手に、優しい声が応じる。
「あれは合歓、こっちは椿」
どの花を指差しても、まるで魔法のように答えてくれる皺まみれの顔を、男の子は尊敬の眼差しで見つめる。
「ばあちゃんはすごいや! なんでも知っとるんじゃね!」
孫が生き生きとした声でそう言うと、老女は目を細めて嬉しそうにはにかむ。
「伊達に年は取っとらんよ」
ひざ上に載せた白黒模様の猫を優しく撫でながらそう言う。
「アキチュラもすごいけどばあちゃんには負けるね~♪」
本当はアキツラ、と言うべきところなのだが、彼が言うと呂律が回らずいつもアキチュラになってしまう。
幼児らしいたどたどしい口調でそう告げた男の子を、もう一方の少年がムッとした顔で睨み付けた。
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