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戸惑い
ねっとりとした大気が身体にまとわりつく。
チュウが旅立ってから二週間余りが経過していた。
盆も過ぎたのに、暑さは一向に弱まる気配がない。
こんな夜は扇風機を回したところで焼け石に水だ。ましてや、窓を開けたぐらいで心地よい風なんて期待できるはずもなく。
扇風機を回すことを早々に諦めると、俺はクーラーのリモコンを手に取った。
「暑……」
言いながら、スイッチを入れる。
風呂に入る前にそうしておかなかったことが悔やまれたけれど、今更どうしようもない。
団扇を片手にくつろげた胸元を扇ぎながら、ふと隣家の幼馴染みのことに思いを馳せる。
(今日も来るんだろうか……)
幼馴染み――忠成――の家にはエアコンがない。
それで、今日のような熱帯夜には当然の顔をして涼みにくるのが常になっていた。
忠成には何ら他意がないであろうその行動が、俺にとっては無茶苦茶苦痛だなんて思いもよらないはずだ。
「はぁ……」
気が付くと団扇を動かす手が止まっていた。
エアコンから吹き付けてくる風が心地よい。
そんなに広い部屋じゃないので、考え事をしている間に冷えたらしい。
勉強なんて別にやらなくても出来るけれど、所在無さにとりあえず学習机に向かってみた。
夏休みに入って二日目で、課題の大半は終えている。
頭の体操にもならないような簡単な問題の羅列に飽きてしまってからは、ほんの数頁を残して放り出していた。
(それでもアイツにとっちゃ難問だらけなんだろうなぁ)
眉間に皺を寄せて真剣に問題に取り組む幼馴染みの姿を思い浮かべ、自然口許がほころぶ。
(本当、アイツは何をやっても可愛い)
無意識にそう思ってから、俺は頭を振ってその考えを追い払った。
(男相手に有り得ねぇだろ!)
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