56人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
警鐘
「よぉっ♪」
心の準備も済まないうちに、扉が開かれる。
無論、ノックなんてするような殊勝なたまではない。
声と同時に何の前触れもなく開かれたドアに、俺は背を向けたまま深呼吸をした。
俺の様子なんてお構いなしに部屋へと踏み込んで来た忠成を、精一杯の仏頂面で振り返る。
「あ~。やっぱここサイコー♪ すっげぇ涼しぃー♪」
途端、マイ枕片手に、うっとりと目を細めた忠成の笑顔が目に入って、俺は軽い眩暈を覚えた。
(ヤベッ。今の顔むっちゃ可愛い……)
そう思ったのを隠そうとしたら、声が自然と不機嫌になった。
「今夜もかよ……」
本当は毎夜のように忠成が訪ねて来ることが、嬉しかったりする。
別の部分では困っている自分もいるけれど、基本俺はこいつの顔を見るのが好きなのだ。
「だって俺ん家、クーラーねぇんだもん」
言葉とは裏腹に、全く悪びれた様子もなく歩み寄ると、我が物顔でベッドに腰掛ける忠成。
忠成は、俺の家を訪れる際、必ず枕を持ってくる。
この枕、頭の下に敷くために持っているわけではないことに、ここ数日で気が付いた。
そのことが、俺の胸を締め付ける。
「俺の部屋は避暑地じゃないぞ……」
言葉と表情は思いっきりぶっきら棒になっているけれど、そんな忠成を追い返す気なんてさらさらない。
最初のコメントを投稿しよう!