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枕になんて
机に向かっていても、勉強なんてはかどるはずがない。
後ろで忠成が眠っている気配がするからだ。
スースーという規則正しい寝息が、エアコンのモーター音より遥かに大きく聞こえてしまう。
これで気にするな、というほうが無理だ。
一応俺だって健全な男。気になる存在が、すぐ傍で無防備にしているのを知っていて平常心で居られるはずがない。
落ち着け落ち着け、と強く心に念じるけれど、そうしていること自体、気にしている証拠だ。
壁の時計を見ると、さっき見てから五分しか経っていない。
数分おきに時計を見上げては、一向に落ち着きを取り戻せない心臓に舌打ちをする。
そんなことを、さっきから何十回続けただろう。
「11時過ぎか」
忠成が「おやすみ」を告げてから、優に2時間以上が経過していた。
そろそろいいだろう。
忠成が眠りについてすぐ、部屋の電気自体は落としてある。それで、机に付随している小さな蛍光灯の明かりだけが部屋内を照らす全てだった。
頼りない明るさの中、恐る恐る後ろを振り返ると、俺の影が重なるところに、薄っすらと忠成のシルエットが見えた。
やっぱり今日も枕を抱きしめているみたいだ。
音を立てないよう細心の注意を払いながらベッドサイドに歩み寄ると、俺は苦々しい気分でその寝姿を見下ろす。
「俺の前でぐらい素直になれよ」
まるで何かにすがりつくように枕を抱いて眠る忠成に、胸の奥がズキズキと痛んだ。
俺はこの幼馴染みが、一度寝入ってしまえば少々のことでは起きないことを知っている。
ベッドの傍らに腰を下ろすと、無防備に眠る忠成の頭をそっと撫でる。髪の毛に触れるか触れないかという、ソフトなタッチだ。このくらいで起きるはずがない。
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