枕になんて

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 そう思っていて、こんなにも胸がドキドキするのは、別の部分で反応しているからに他ならない。  ライトを後ろに背負う格好になっているせいで、俺が覆い被さると忠成(ただなり)の寝顔は影に沈んで見えにくくなる。  それでも目が慣れてくると、薄っすらと開かれた唇の形状までもが鮮明に見えるようになるから不思議だ。  視覚に入るそれが余りにも蠱惑的(こわくてき)で、俺は半ば吸い寄せられるように忠成の唇を指でなぞった。  その柔らかい感触に、もっと触れたいと()う。  その衝動に、思わず腰を浮かせかけたのと同時に、忠成が寝返りを打った。その瞬間、俺は動けなくなる。 (俺は今、何をしようとした?)  明らかに忠成にキスしようとしていた自分に、俺は 動揺を隠せない。  グッと拳を握り締めると、俺は忠成から目を逸らした。  このまま彼を見つめていてはいけないような気がした。  でも、いつまでも逃げているわけにはいかない。  俺は、忠成を救いたいのだ。  明らかに無理している幼馴染みを、これ以上放置するわけにはいかない。  一呼吸置いてゆっくりと忠成(ただなり)のほうを振り返ると、視線の先に先程と変わらぬ様子で安らかな寝息をたてる忠成がいた。  幸い、さっきの寝返りで顔はあちらを向いている。  俺はゆっくり立ち上がると、ベッドに片膝をついて忠成の手から枕を抜き取った。  しっかり抱いているように見えたが、握り締めていたわけではなかったらしい。  思いのほか簡単に抜けた枕を、俺はベッド横の床に置いた。  その途端、眉間にしわを寄せてうなされる忠成。  無意識に両手を伸ばして枕を探す仕草をする。  俺は、黙ってそれを見つめていた。  いつもなら、眠っている忠成から枕を奪うような真似はしない。  したとしても、今みたいになったら迷わず自分の手を差し出していた。
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