枕になんて

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 忠成(ただなり)は、とりあえず何かを抱いていれば落ち着くことを知っていたから。  でも、今夜は何も差し伸べてやるつもりはない。  一生懸命何かを掴もうと宙を掻く忠成の両腕を見つめながら、俺は「冷淡になれ」と自分に言い聞かせた。  本当は、こんなに辛そうな忠成の顔を見るのは耐えられない。  今すぐにでもその手を取って、自分の腕の中にきつく抱きしめてしまいたい。  そうすれば、忠成がホッとした顔をして眠り続けることを知っているのだから。 「……んっ!」  しばらくそのままにしていたら、忠成が苦しそうに吐息をついてゆっくりとまぶたを上げた。  そうして自分の両腕に枕が握られていないことに気付くと、ハッとして起き上がった。  そこで、すぐ傍にいる俺に気付く。 「(あき)(つら)……?」  きょとんとして俺を見つめてから、「枕は?」と恐る恐る口を開く。  まさか俺がわざと取り上げただなんて思いもしないんだろう。  純粋に問いかけてくるその視線に、俺は視線を逸らしたいような衝動に駆られる。  でも、ここで逃げては駄目だ。  そう言い聞かせると、一呼吸置いて、 「俺が取り上げた」  淡々とそう告げた。  その台詞に、忠成(ただなり)が瞳を見開いたのが分かる。 「……な、んで……そんな……こと?」  解せないという表情をする忠成に、俺はわざとあからさまに溜め息をついてみせた。 「秋連……?」  不安そうに揺れる瞳が、薄暗がりの中でもはっきりと見えて、俺は正直ひるみそうだった。 「お前が……素直にならないからだ」 「え?」  意を決して告げた俺の言葉に、忠成がきょとんとした顔をする。  どうしてそういう言葉が出るのか理解できないらしい。 「お前な、俺が気付いてないと思ってたのか?」  ここまできたら言うしかない。  俺はいよいよ覚悟を決めた。
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