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忠成を押し倒してしまいたい、という衝動を押し殺すのは存外骨の折れる作業だった。
心を落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をすると、俺は忠成の目をしっかりと見つめ返しながら言葉を紡ぐ。
「忠成。チュウが死んで……本当は寂しいんだろう?」
意を決して告げた言葉に、忠成が瞳を見開いた。
それから、不自然な態度で視線を逸らす。
「そ、んな、ことない……。俺、思ってた以上に平気……だったし」
しどろもどろにそう言って
「現に……チュウが死んだとき、俺が泣かなかったの、お前だって知ってる、だろ……?」
切り札のようにそう付け加えた。
「ああ。知ってるさ」
だから問題なんじゃないか!
こいつ、俺がそんなに鈍感な奴だと思っているんだろうか?
そう思ったら、無性に腹が立ってきた。
「知ってるから心配してるんじゃないか……!」
声を荒げるつもりはなかったのに……。
気がついたら、そう叫んで忠成をベッドに押し倒していた。
まずい……。
抑えられなくなりそうだ……。
激情の余り取ってしまった行動に、俺は一瞬戸惑った。しかし、俺に組み敷かれた忠成の虚ろな表情を見て、何とか情欲に流されるのを踏み留まることが出来た。
俺にさえ、嘘をつこうとする忠成に、信頼されてないような気がして、俺は本当に悲しかった。
それが、表情に出ていたのかも知れない。
ぼんやりとしていた忠成の瞳に、戸惑いの色が揺れた。
俺はそれを見逃さなかった。
「……あのな、忠成」
彼を押さえつける腕を少し緩めると、それでも上に覆い被さったまま言葉を続ける。
「悲しいときには悲しいって言っていいんだぞ? それはちっとも恥ずかしいことじゃない。少なくとも婆ちゃんが死んだときにはちゃんと出来てたじゃねぇか」
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