ごちそうさま

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 いきなり秋連に深く口付けられて、俺は何が何だか分からなくなった。 「ごちそうさま」  ニヤリと笑って遠ざかって行く秋連の顔を見詰めながら、己の身に何が起こったのかを懸命に考える。  秋連の顔が、俺の上に落としていた影が消えてから、俺はやっと正気に戻った。 「お、おまっ、一体何を……っ」  いや、何をされたのかは理解出来ているけれど……何でそんなことされなきゃなんねぇんだ!?  混乱しまくる俺を見て、秋連が「何を今更」とつぶやいてニヤリと笑ってみせた。 「忠成(ただなり)。お前、俺の恋愛に付き合うって言ったじゃねーか」  言った! ああ、確かに言ったとも! 「でも、それとこれとは関係な……」 「大有りだ」 1daa1685-eabe-42b3-ac44-d35bb6bc1d3b  まだ分からないのか、と呆れた顔をすると秋連は、 「俺はお前がどんなに汗臭かったとしても……恐らくそうだとは感じ取れん」  そう言った。 「? ……だからっ! 何でいきなり話が飛ぶんだよ!」  ここへ来てもチンプンカンプンなことを言う秋連(あきつら)に、俺の思考回路は空回りを繰り返す。  余りのことに縫い止められたように身動き出来ない俺は、椅子に腰かけたまま横に立つ秋連を睨み上げる。 「好きになりすぎるとその相手のにおいってあんまり感じなくなるみたいだな。現にお前はニョロ豆のにおい、感じないだろう?」  勝ち誇ったようにそう言って笑う秋連に、俺は何と反論すればいいのか分からなくて――。  とにもかくにも恋愛相談に来て、晴れやかな気分で帰れるはずだった友の家を、来たときよりも大きな悩みを抱えて出なければならないことだけは理解出来た。  あー! もう! 俺はこれからどうすればいいっ!? [完]
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