中秋の明月

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 今日は仕事も定時で終わり、特に何もすることもないから、自宅でのんびりと食事をしていたところだった。食事と言っても面倒なのでコンビニの弁当だが。男の一人暮らしはこれかだらいけない。もっとまめに自炊してまともな食事をしないと、そのうち身体を壊してしまうかもしれない。が、俺はまだせいぜい三十年弱しか人生を送っていないから、まだコンビニ弁当でも心配しなくてもいいと思う。  月を一緒に眺める家族もいない。家族はいるが、大学入学と同時に実家を出て東京へ来てしまったから、ずっと一人暮らしだ。そしてもっと残念なことに、俺には付き合っている彼女もいない。以前はいたが、別れた。いや、ふられた。もう4年くらい経つので、彼女いない歴も長い。彼女いない歴、という言葉自体がなんとなく古い気がする。  以前から言葉の選びかたがどことなく昭和くさいと言われていた。それのどこが悪いのかと思うが、いけないのだろうか。 「散歩にでも行くか」  小さなアパートの一室で閉じ込められながら月を眺めるのも窮屈に感じて、俺は近所を散歩するために玄関に向かった。靴をはきながら、この週末はさぼっていた掃除機かけをしようと思い付く。掃除は嫌いではないが面倒だった。
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