9人が本棚に入れています
本棚に追加
竜の息子
入り口は封鎖されていたが入るのは簡単だった。裏口の横の換気窓から難なく侵入できる。
「えと、なんでお前がついて来た?」
迷惑そうに護良が美紀ちゃんにそう言った。なんて冷たい言い方をするやつなんだ。
「あたし、由紀が心配で…」
理由なんてそれしかないじゃないかヨッシーの馬鹿の野暮ちんめ。
「まあいい。なかにみんないるようだ。まだ儀式は始まっていないようだし。ちなみに儀式は何回目だかわかるかい?」
「今夜で七回目だと思います」
ぼくの問いに美紀ちゃんはすぐ答えた。なかなか頭のいい子らしい。
「そいつはギリギリだったね」
「どうして、ですか?」
「サバトの儀式は七回行われる。きょうは満月の夜。いよいよ悪魔が降臨する。そうしたらみんな終わりだ」
「そんな…」
美紀ちゃんは泣きそうになっている。こんなところで泣かれては困る。
「おいしっかりしろ。いいか、てめえの友だち救いたいんでついてきたんだろ?だったらしゃんとしろ」
「ヨッシー、言い方キツイよ。もっと優しく言わないと。これだから女の子にモテないんだよ」
「大きなお世話だ。ってかヨッシーやめろ」
「クス」
へえ、笑ってる。どうやらちょっとは度胸もあるみたいだね、この子。だがぼくの感心をよそに、奥の方でその儀式は始まろうとしていた。
「おい、大丈夫なのかよ?」
ヨッシーが小声でぼくにそう聞いてきた。まったく、本当にぼくを信用してないなあ。
「ああ、ぼくは竜の息子さ。悪魔に負けるわけはない」
「なんですか?竜の息子って」
ありゃあ、聞かれちゃった。まあしょうがない。あとで記憶を消しちゃえばいいんだからね。
「ぼくは竜の息子、ヴラド・ドラキュレアというのが本名さ」
「えと…ドラえもん?」
「ちゃうわ!日本で言う、ドラキュラ。まあそういう名だ」
「あー…えーと…」
「なあ神人、こいつ信じてねえぜ」
「どっちでもいい。どうせ記憶を消すからね」
ぼくらふたりのささやきをよそに、この女子中学生は何を思ったかちょっと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!