竜の息子

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竜の息子

入り口は封鎖されていたが入るのは簡単だった。裏口の横の換気窓から難なく侵入できる。 「えと、なんでお前がついて来た?」 迷惑そうに護良が美紀ちゃんにそう言った。なんて冷たい言い方をするやつなんだ。 「あたし、由紀が心配で…」 理由なんてそれしかないじゃないかヨッシーの馬鹿の野暮ちんめ。 「まあいい。なかにみんないるようだ。まだ儀式は始まっていないようだし。ちなみに儀式は何回目だかわかるかい?」 「今夜で七回目だと思います」 ぼくの問いに美紀ちゃんはすぐ答えた。なかなか頭のいい子らしい。 「そいつはギリギリだったね」 「どうして、ですか?」 「サバトの儀式は七回行われる。きょうは満月の夜。いよいよ悪魔が降臨する。そうしたらみんな終わりだ」 「そんな…」 美紀ちゃんは泣きそうになっている。こんなところで泣かれては困る。 「おいしっかりしろ。いいか、てめえの友だち救いたいんでついてきたんだろ?だったらしゃんとしろ」 「ヨッシー、言い方キツイよ。もっと優しく言わないと。これだから女の子にモテないんだよ」 「大きなお世話だ。ってかヨッシーやめろ」 「クス」 へえ、笑ってる。どうやらちょっとは度胸もあるみたいだね、この子。だがぼくの感心をよそに、奥の方でその儀式は始まろうとしていた。 「おい、大丈夫なのかよ?」 ヨッシーが小声でぼくにそう聞いてきた。まったく、本当にぼくを信用してないなあ。 「ああ、ぼくは竜の息子さ。悪魔に負けるわけはない」 「なんですか?竜の息子って」 ありゃあ、聞かれちゃった。まあしょうがない。あとで記憶を消しちゃえばいいんだからね。 「ぼくは竜の息子、ヴラド・ドラキュレアというのが本名さ」 「えと…ドラえもん?」 「ちゃうわ!日本で言う、ドラキュラ。まあそういう名だ」 「あー…えーと…」 「なあ神人、こいつ信じてねえぜ」 「どっちでもいい。どうせ記憶を消すからね」 ぼくらふたりのささやきをよそに、この女子中学生は何を思ったかちょっと笑った。
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