詐欺から始まる泥棒生活

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俺の名前は鷺山(さぎやま)。 そこの大学に通う二年生だ。 適当な自己紹介だと思わないでほしい。 本当に大学名が「底乃(そこの)大学」なのだ。もう、名前からして嫌な大学だ。 ネットでも大学名をバカにされる、いわゆるネタ枠の大学。 俺だってこんな大学に入りたかったわけではない。言ってしまえば不本意入学だ。 周りのやつらと俺は違う、本当は…… という思いを抱えて過ごした一年生。 二年生になってから、やっとたどり着いたのだ。 そう、俺はやっぱり他のやつらとは違ったのだ。 「パワーストーンの効果はありました?」 スマホを片手に、シャーペンを持つ。 つい回してしまいそうになるが、それはぐっとこらえた。ここが勝負所だ。 『それが、いまいちで。使い方が悪かったんでしょうか』 「いえ、聞いた限りでは使い方に問題はないようなので── 悪霊が憑いているのかもしれませ んね」 『悪霊ですか?まさか、そんな』 「私の方からお祓いを頼むこともできますが、いかがでしょう。もちろん費用はかかってしま いますが、除霊をしていただいた方がよいかと思われます」 電話の相手が黙る。考えているのだろうか。 こんなときに限って、ついシャーペンを回して しまった。何やってんだ。 『費用というのは、どのくらいなんでしょうか』 「そうですね、二十万円ほどを考えていただければ」 緊張の一瞬。 これでダメなら、また別の手でアプローチするしかない。 他のメモに視線を向けた頃に、息を吸う音が聞こえた。 『お願いしたいです』 ガッツポーズ。勝ちだ。 「承知いたしました、それではこちらからまたご連絡させていただきますね。いつ頃ならお時 間大丈夫でしょうか」 はい、はい、と情報を聞き出して、震える手で電話を切る。 シャーペンもすぐに机の上に置いた。 成功した。勝ったのだ。 「よっしゃあぁぁ!」 思わず大声を上げてしまい、隣の部屋の住人から壁を叩かれた。 でも、そんなことは知ったこっちゃない。 俺は隣の部屋のこいつとは違うのだ。 そう、俺がたどり着いたのは、詐欺だった。 さて。 詐欺を始めた俺がそれだけで満足したか。答えは否だ。 「鷺山くん、ちょっと荷物見てくれる?あいつが来るの遅いから、電話してみるわ」 「りょうかーい。任せてよ」 「頼んだわ」 そう言って教室を出ていった友達。 まあ、本当に友達と思っているか、と聞かれると微妙ではある。 ただそんなのは関係ない。 そっと友達のカバンを開け、財布に手を伸ばす。 中身を確認して、野口さんを一枚拝借した。 そのまま、何事もなかったように財布を戻して、知らん顔をした。 ただの遊びだ。 お金に困っているわけでもない。 収入はちゃんとある。 ま、その収入も詐欺なわけだが。 「あいつ、今日休むんだってさ」 戻ってきた友達は何の疑いも抱かずに、「ありがとう」とカバンを受け取った。
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