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第二話 斉賀希のこれまでの人生について
斉賀希、15歳。
母親似の女顔と、それに負けないくらい可愛い名前のせいで――もはや開き直ってすらいる――小学生の頃からからかわれいじめられ続けてきた。
同性から『オカマ菌が移る!』などと揶揄されるのはまだ理解できた。
しかし年齢が上がるにつれて、異性からも『あたしより可愛いなんて許せない!』などと言われるのは理不尽極まりないと思う。
おかげで小学校はほぼ不登校で、中学校はギリギリの日数しか登校せず、運動会文化祭修学旅行は全てサボった。
担任は何回泣かせてきたか分からない。
けど両親は、そんなオレをこれでもかというくらい甘やかしていた。
それで逆に「このままじゃいけない!」という危機感がオレの中で生まれたのだった。
変わりたい、と強く思った。
女顔の男性なんてそこらじゅうにいるのに、それを指摘されて引きこもるなんて情けないとようやく気付いたのだ。
変わるなら外見から。
そして、オレを無制限に甘やかす両親からも離れたいと思った。
担任の先生に事情を話し、協力してもらって、取り寄せた膨大な学校資料の中からある高校を見つけた。
その名も私立藤堂学院高校。歴史ある名門男子高校で、場所は地元からやや遠く、しかも寮完備だった。
しかし名門私立だけあって学費が高く、金持ちが通うような学校らしかった。
けれど、成績上位者は奨学生として入学金以外の学費は三年間全て免除される制度がある――一度でも成績を落とせば取り消しとなる――らしい。
運良く勉強しか得意なものがないオレは、これしかないと思った。
オレの家はごく普通の家庭なので、そんな高い学費は払えないと親は猛反対してきた。一人っ子のオレが家を出て寮生活をするいうことにも、特に母親は反対した。
そこでオレは、もし試験に受かっても奨学金枠に引っかからなかったら合格を辞退する、でも他の高校には一切行かないと宣言し、必死で勉強した。落ちたら中卒ニート決定だ。
まあそんな努力の甲斐あって、こうして無事入学式に出席できているわけだが……
「なぁおい、見ろよあの頭……」
「気合い入りすぎだろ……高校デビューでピンク髪にする奴とかそうそういねぇぞ……」
「いくら校則で染髪は禁止されてないっつってもなぁ、入学式だぞ……」
気合いを入れすぎたイメチェンは、どうやら失敗というかやりすぎだったらしい。そこらじゅうからザワザワと、オレの容姿に関する会話が飛び交っている。
ヘアカラーをピンク色にチョイスしたのは、予約もせずに偶々入った美容室にいた派手な男性美容師だった。
イメチェンしたいという旨を伝えて、髪色も髪型も全部お任せしたらこうなっていた。
顔を隠すために伸ばしていた前髪も、顔が見える程度に短く切られていた。
鏡を見たら、不登校だった斉賀希はどこにもいなくなっていた。
地元を歩いても誰もオレが斉賀希ってことに気付かないし、むしろ不良と勘違いして道を開けてくる。
少し気分が良くて、強くなった気がした。
――まあ、それは大いなる気のせいだったんだけど……。
昨日寮に前日入りしたオレは、先輩と思しきガラの悪い3人組に絡まれた。オレ自身も男なのに、あの時ほど自分の無力さを痛感した時間はない。
しかし、そんなオレの前に救世主――悪魔のようなひとだったけど、オレにとっては間違いなく――が現れた。
それが『アサヒナ』先輩。
身長が高くて、同じ高校生とは思えない程体格も良くて、寝起きみたいなぼさぼさの黒髪頭だった。
何より印象的だったのは目だ。
確実に何人か殺してる(決めつけ)、危険な目つきをしていた。
あの目をもし自分に向けられていたらその場でチビっていた自信がある。
彼はオレに絡んでいた3人をぼっこぼこにしたあと、何事もなかったかのように去っていったのだった。
そういえばお礼もろくに言えなかった。
オレの存在には気付いていないと思ったけど、よくよく思い返したら彼の言動にはオレを助けようとする意図があったのだ。
少し――いやだいぶコワイけど、本当は良い人なのかもしれない。
危ないところを助けてもらったのだから、せめてお礼が言いたい。
それに、あんな強い人と仲良くなれたら、オレはもっと変われるかもしれない……。
そう、あわよくば……
舎弟になりたいなあと!!
そんな打算的なことを考えていたら、いつの間にか入学式は終わっていた。
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