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第四十二話 新生徒会役員発表
今日は、待ちに待った――できれば来てほしくなかった――新生徒会役員発表の校内放送日だ。
すずとハルと合流して、緊張しながら放送室へ向かったら、先輩たちはすでに全員が揃っていた。
朝比奈先輩はすごく眠たそうに大欠伸をしていて、頭も普段よりぼさぼさだ。いかにも寝起きって感じ。
いつものぼさぼさ頭は、意外とセットされたものなのかもしれない。
「こ、こんにちは。お疲れさまです」
「こんにちは、初めまして、山田清白です……!」
「は、初めまして、東雲です……」
すずとハルはまだ生徒会の人たちに会ったことがなくて、(すずと朝比奈先輩、橘先輩以外)今日が初対面だ。
二人ともめちゃくちゃ緊張しているだろうから、オレがしっかりしなくちゃ……!!
「こんにちは、斉賀君。山田君と東雲君もよく来てくれたね」
「ところでオレ達、集合時間を間違えてましたか……?」
少し早めに教室を出たのに、先輩たちが全員揃っていたから内心ビビりまくりだ。
生徒会長の橘先輩におずおずと尋ねると。
「いや、僕たちのクラスの方が放送室が近いからね。それに一年生は緊張して足取りが重くなるものだろう?」
「ハ、ハイ。その通りです、すみません」
「謝ることはないよ、当たり前のことだからね」
橘先輩はめちゃくちゃ美形なのにそれを鼻にかけないというか、とても気さくに接してくれる。けど、それを信者に見られたら一番厄介な人でもある。
すると、つばめ先輩が杖をカツカツと着きながらオレの方へ歩いてきた。
「希、先週は大変だったね。怖かっただろう?」
「え? ……あっ、大丈夫です! 未遂でしたし、朝比奈先輩が助けてくれたので事なきを得ましたし」
つばめ先輩の綺麗な顔が間近にあってドキッとした。相変わらず綺麗なおねえさん(のよう)で、すずもハルもぽーっと見惚れている。
それに、名前で呼んでくれるなんて嬉しい。(オレもつばめ先輩と呼ぶようになったが、それはひばり先輩もいるからだ)
それにしても、何故つばめ先輩があのことを知っているんだろう……?
オレの疑問が顔に出ていたのか、朝比奈先輩が応えてくれた。
「校内で起きた事件はどんな小さなことでも生徒会役員全員に通達するって義務があるんだよ。それは俺たちの身に起きたことであろうと同じで。だから勝手に話しちまった、ごめんなノンタン」
「そ、そうだったんですね……。他の先輩たちも心配してくださってありがとうございます」
「本当に無理してない? カウンセリングとか受けなくて平気?」
「だ、だいじょぶです」
オレにはすずという専属カウンセラー親友がいるし。(本人自覚ないけど)
つばめ先輩、めちゃくちゃ心配してくれるのは嬉しいけど、橘先輩が少し悔しそうな、恨みがましいような目でこっちを見てくるのがちょっとだけ怖い……。
「何かあったら真っ先に僕に相談しなよ。柊馬に言ってもほとんど解決しないと思うし」
「おいつばめ、今俺の名前にバカって被せなかったか?」
「へえ、自覚があったのか? 馬鹿の」
「んぎっ……ノンターン、つばめがいじめるぅぅ!!」
「キモい」
すずとハルをちらっと見たら、朝比奈先輩のカッコ悪さとつばめ先輩の変貌ぶりに蒼くなっている。分かるよ、その気持ち……。
「コホン……じゃあとりあえず初顔合わせということで、山田君と東雲君の二人から自己紹介をしてもらおうかな。放送の練習も兼ねてね。じゃあ山田君からどうぞ」
すずは緊張した面持ちで、でもハキハキと先輩達に自己紹介をした。
「1年C組の山田清白です。中学のときは卓球部でした。生徒会役員はやったことがないので色々と不慣れですが、精一杯がんばりますのでよろしくお願いします!」
すずって中学では卓球部だったのか。同じくらいの距離を走っても、オレと違ってそんなに息切れし無いことに納得がいった。
「いいね。じゃあ本番もそんな感じでね。――次は東雲君」
「しっ、竹刀を構えてもいいですか? すごく下のほうで持ちますから……。俺はあがり症のうえに赤面症なので、竹刀がないとまともに喋るのすら無理なんです」
「そうなの? じゃあ本番は竹刀がカメラに映らないよう気をつけてね、一般の生徒がびっくりしちゃうから」
「ハイ」
やはり竹刀はマストアイテムなのか。
ハル、緊張して震えまくってるけど大丈夫かなぁ……?
ハルは下のほうで両手で竹刀を構えると、すうっと息を吸った。
すると体の震えがピタッと止まり、下がっていた眉と目がきりっと上がって別人のように顔つきが変わった。
「星影中出身、1年A組の東雲千春です! 小学生の頃から剣道を嗜んでおります。自分も生徒会役員は初めてですが、できる限り皆さまのお役に立ちたいと思っていますのでどうか一つ、よろしくお願い申し上げます」
おお……なんか固いけど、簡潔でいいな……!
「ちょっと固いけどキャラが立ってていいね。本番もよろしく頼むよ。――じゃあこの勢いで次、斉賀君どうぞ」
「え、オレですか!?」
「リハーサルだから。斉賀君の次は朝比奈君、つばめくん、二小山君、藤堂、そして僕が最後に締めるよ!」
――そんなこんなでリハーサルを終えて、放送部の方々の協力のもと、本番が始まった。なんと声だけでなく、映像付きの生放送だった。
すずとハルはさっきとほぼ同じだったので割愛――。
「は、初めまして。1年C組の斉賀希です。このたび生徒会執行部、執行係に任命されました。と、藤堂学院高校の平和を守るために精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします……!」
オレの挨拶は二小山先輩が講評してくれた。(なぜか毎年別の役員にそれぞれ感想を言ってもらうらしい)
「1年生らしく、初々しくていい挨拶でした~! 斉賀君は画面も派手でいいね~!」
――次は、朝比奈先輩。
「2年B組朝比奈柊馬。去年に引き続き執行係を務めるぜ。俺の前で校則違反――っつうかおイタしたら容赦なく制裁すっから、後頭部に気を付けろよナ」
講評はつばめ先輩だ。
「お前に校則云々言われたら終わりだな。真面目にやれ、馬鹿柊馬!」
――次は、つばめ先輩。
「こんにちは、2年A組の西園燕です。今年は生徒会の書記を努めます。よろしくお願いします」
講評は藤堂先輩だ。
「今年も簡潔でいいですね、つばめさん。最後はファンのためにスマイルでもしてもらえるともっと良かったんですが」
藤堂先輩の講評に橘先輩が怒っていた。(自分以外のつばめ先輩ファンは断固認めないとかなんとかカメラの外でわめいている)
――次は、執行部のボス、二小山先輩。
「どうもどうもこんにちは、3年の二小山正太郎で~す。今年も執行部なのでよろしくお願いしま~す」
講評は朝比奈先輩。
「ちょ、簡潔すぎねェっスか!? ――まあ、ニコチャン先輩らしくて俺は好きッスけど」
あんな感じでいいのか……。何だかんだ言って、二小山先輩も大物だ。さすが朝比奈先輩のセンパイ。
――次は藤堂先輩だ。
「今年も副会長を務める3年の藤堂護だ。――諸君に警告しておくが、2年B組の我が麗しの歌姫、声楽部のエース西園ひばり様に無礼を働く者はなんぴとたりとも許さん。執行部ではなく個人的に制裁を与えるから、近づく者は心しておくがいい!」
講評は……オレ。
「藤堂先輩、ほとんどひばり先輩の紹介になってますよ……あと、怖いです」
ツッコまずにはいられませんでした。
――最後は、橘先輩。
「こんにちは! 藤堂学院の生徒諸君、ランチタイム中に失礼するよ! 3年A組の橘恭平です。高校生活最後の一年、今まで以上に精一杯生徒会長を務めさせていただくよ! みんな、ついてきてね!!」
藤堂先輩は最後バチィィンと激しくウインクをして、謎の光を思い切りカメラに放った。
講評はすずとハルだ。
「「さ、最後のフラッシュは生徒の目がつぶれるので、控えめにしてください……!」」
そんなこんなで、生徒会役員発表校内放送は無事(?)終わりました!
あー緊張した……。
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