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第四十八話 希ⅤS清原 放課後の決闘
「はあ~…」
もうすぐ放課後だと思うと自然に溜息が零れた。
リバーシは小さい頃によく父とやってたからそれなりに得意だけど、こんな深刻な気持ちでやるものではないというか、なんというか……。(オレがスポーツ全般苦手なのが悪いんだけど)
「のんちゃん、元気だして! 応援たくさん呼んだからさ」
オレが溜息をついてるのを見てか、すずが席まで来て慰めてくれた。
「応援? たくさんって……誰呼んだの?」
「あれ、Rhine見てない?」
昼休みは清原君のせいで全部潰れたから全然チェックしてなかった。トーマ先輩から何か来てるかもしれないと思ってオレはスマホを覗いた。
――って、生徒会のグループRhine通知めっちゃ来てる。
【山田清白】
お疲れ様です、山田です。今日の放課後、斉賀君が朝比奈先輩のファンと朝比奈先輩を賭けて決闘することになりました!(申し込んできたのは先方です)時間がある方はぜひ応援に来て下さい!決闘会場は1-Cの教室です!
「な、ななな……なにこれ!?」
「いやーほんとは賭けてないけどね、こう言ったほうが盛り上がるかなぁ~と思って!」
オレが知らない内になにやらグループRhineは盛り上がっていた。
急いで画面をスクロールしていく。
【朝比奈柊馬】
なんそれ、面白そう。絶対観に行くわ。
ガンバレノンタン! 愛する俺のために勝ってくれ!!
【橘 恭平】
いまどき決闘とかロマンがあるね。
僕は生徒会長だから贔屓はできないけど、斉賀君の勇姿を見に行くよ。
【西園燕】
突っ込みたいところが多々あるけど、とりあえず希の顔は見に行きます。
暴力行為があったら即刻中止を要請します。
【二小山正太郎】
なんか面白いことやるみたいだね~!
応援に行きま~す!
【藤堂護】
朝比奈を賭けての決闘というのはどうも理解し難いが、せっかくなのでひばり様を誘って行きます。良い口実を有難う。
「……………」
こ、これは……放課後うちの教室に生徒会全員が集結する感じ? わざわざオレと清原君のオセロ勝負を観に……!?
ど、どうしよう。たいしたことはしないから別に来なくていいですって送るべきだろうか……でもせっかくすずが呼んでくれたんだし……うう……。
「こら斉賀、ホームルーム中に堂々とスマホいじるな、せめて隠れてやれ」
「あ、す、すみません!」
つい画面に夢中になって、吉永先生が来ていたのに気付かなかった。
オレは慌ててスマホをリュックに入れて前を向いた。
そして、放課後。
「ちょ……橘生徒会長だぜ! 相変わらずお顔が眩しいっ……!」
「西園先輩もいる、噂通りめちゃくちゃ美人だな……」
「ゲッ、朝比奈先輩だ」
「なになに? なんで生徒会役員がぞろぞろとうちのクラスに集合してきてるんだ!?」
先輩たちは本当に応援に来てくれた。背の高い人が多いから、なんだか並ぶと圧巻だ。
その上皆さん顔もいいから、ちょっとしたアイドルグループに見えないこともない。いや正真正銘アイドルだと思う、この高校の。
「おらぁ藤堂っ、わざわざ1年の教室まで来てやったんだからさっさと飲み物よこしやがれ!」
「ハイっ只今!! ひばり様、お菓子もどうですか!?」
「お、気が利くじゃねーか変態」
「ははあ、ありがたきお言葉!!」
生徒会役員ではないけど、食べ物に釣られたらしいひばり先輩も来てくれていた。藤堂先輩とはもはやストーカーと被害者というより、女王様とその下僕のように見える。
そんな面子がゾロゾロと教室に入ってきたから、まだまばらに残ってたクラスメイト達はかなり困惑していた。
「僕たちのことは気にしないで。きみたち、気を付けて帰るんだよ」
橘先輩のその一言で、残ってたクラスメイト達はぽーっと顔を赤くしながら教室から出ていった。廊下に居たギャラリーも同じく……。
「よ、ノンタン! 決闘とからしくねぇけど何かあったのか?」
トーマ先輩がオレの隣の席に座り、声を掛けてくれた。
「あ、ちょっと絡まれちゃいまして……それよりトーマ先輩、あの、別にオレ先輩のこと賭けたりしてませんからね!? あれはすずが面白がって書いただけですから!」
「ごめんってのんちゃん。ぼくが説明しますね! えーと1年B組に朝比奈先輩のガチファンがいまして、そいつが斉賀君と朝比奈先輩が一緒にいるのが気に食わないからって、今朝斉賀君に果たし状を送ってきたんですよ」
すずが簡潔に説明してくれた。
「へー、まさか俺様ガチモテ期か? 今時果たし状ってすげぇな!」
「なんでこの馬鹿に憧れるのか僕には理解できないけど……丁度いい機会だし、希、わざと負けなさい」
「おいつばめ! なんつーこと言うんだオマエは!」
「あ、あはは……」
せっかくオレに有利な戦い方でいいって言ってくれたのに、わざとは負けたくないな……それにしても来るの遅いな、清原君。
ドアの方を見たら、ハルが顔を半分覗かせてうちのクラスを伺っていた。
「は、ハル! なんでそんな……入っておいでよ」
オレの声掛けにホッとした顔をして、ハルがいそいそと教室に入ってきた。
違うクラスに入るのに躊躇する気持ちはわかる。
すずがおいでおいでをして、ハルはすずの隣にぴったりくっついた。
「なんだかC組の中が凄いことになってたから、入るに入れなかった……」
「あはは、確かに。でもちーちゃんだって生徒会役員じゃん! ……それにしてもあいつ、遅いね。逃げたのかなぁ」
すずがそう言った途端、後ろのドアから豪快な声が響いた。
「待たせたな、俺に倒される覚悟はできたか、斉賀希!! ……って、なんかギャラリー多っ!!」
清原君は来て早々このメンツにびびったようだ。まあ、そうだよね。
しかし清原君はさっきのハルとは真逆の態度で、ズカズカとC組へと入ってきて言った。
「てめー斉賀希!! ダチ以外にも応援呼ぶとか卑怯じゃねーか!! しかも生徒会メンバー!!」
「呼んだのはのんちゃんじゃなくてぼくだよー」
すずが小さく挙手をして言った。
「てめーか黒目ぱっつんこけし!! 昼休みはバシバシ叩いてくれやがって、あとで倍返しにしてやるからな!!」
「ぼくに何かしたら竹刀で倍返しされるからやめた方がいいよ?」
「んぎぎ……この卑怯者ぉ……」
「なんとでも言って~」
口げんかでは、すずが一枚も二枚も上手のようだ。オレもあんな余裕綽々で言い返せたらいいのに……。(背後のハルの存在も大きいと思うけど)
トーマ先輩に好かれている自信はあるけど、やっぱり昔のことを持ち出されるとつい弱気になってしまう自分がイヤだ。
「ノンタン、どーした?」
「い、いえ……」
オレの様子を察したのか、トーマ先輩が心配してくれた。
優しく頭を撫でてくれて、思わず胸がきゅんとして抱きつきたくなったけど、我慢だ。そんなことをしたらまた清原君に絡まれてしまう。
「つーかあいつ、どっかで見たことあンな……」
「トーマ先輩の中学の後輩らしいですよ」
「マジで? んー……いや、やっぱ見覚えねぇわ。どこにでもいるモブだな」
「おい斉賀希! ……あっ!?」
清原君はやっとオレの隣に座るトーマ先輩の存在に気づいたらしくて、思いっきり目を見開いたあと口をぽかんと開けて、顔色を蒼くさせたり赤くさせたりして絶句した。
「あっ、ああ、朝比奈先輩……!」
「おう、どこの誰だか知んねぇけど中学ン時のコウハイ、あまり俺の可愛いノンタンをいじめてくれんなよ?」
清原君は今のトーマ先輩の言葉が聞こえていなかったのか――もしくは聞いていなかったのか、突然舎弟志願をし始めた。
「朝比奈先輩! 俺が今から勝負して斉賀希に勝ったら、こいつの代わりに俺を舎弟にしてくれませんか!? 中学のときからずっと朝比奈先輩に憧れてたんです!! お願いします!!」
清原君は腰を90度に曲げてびしっとお辞儀をした。
さっきオレには『朝比奈先輩には孤高が似合う』とかなんとか言ってたくせに――と思わなくもないが、勝手に舎弟志願しろ、と言ったのも自分なので黙って聞いておく。
そんな清原君に近づいていったのは、何故かつばめ先輩だった。
「つ、つばめくん?」
橘先輩が心配そうに呼んだけど、つばめ先輩は無視した。
カツカツと杖をつく音が自分に近付いてくるの察してか、清原君は顔をあげた。
つばめ先輩は近くの机の上に杖を置くと、右手を清原の額に、左手を自分の額に当てると、「うーん……柊馬の舎弟になりたがるなんて熱でもあるのかと思ったけど……ないようだね」と真顔で言った。
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