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第四十九話 希、新しい友達ができる
次の日。
食堂から早速、ヒソヒソと話す声や怪訝な目線を頂戴した。
「おい、あの一年の執行係、例の三人にヤられそーになって返り討ちにした挙げ句、停学まで追い込んだらしいぞ……」
「マジ!? 可愛い顔して結構えげつねぇな~……」
「停学は自業自得じゃね? アイツら朝比奈のいないとこで結構好き放題やってたしさぁ」
「俺も前にカツアゲされた! 退学でも良かったくらいだよなぁ」
「そりゃそーだけど、あのコがやったってのがすげーだろ!」
「見た目は子猫なのに中身はライオンかよ……それもまたなんかイイな……」
「じゃねぇと朝比奈なんかと付き合えないだろ」
「確かに……」
たしかに……、じゃな――い!!
「なんかオレがあの先輩たちやっつけたことになってない!?」
オレは隣で同じように噂話を聞いていたすずに訴えた。
オレは襲われても抵抗できずに泣いてただけだし、返り討ちにしたのはトーマ先輩だし、停学にしたのは理事長なんだけど!!
「……だねぇ、理事長の仕業かな? でも別にいいんじゃない、これでのんちゃんを狙ってた人達も半分は諦めただろうし」
「でもオレ実際は全然強くないしっ」
「まあまあ、ただの噂だしネッ」
「……………」
まあ、思っていたよりも世間の目は大丈夫というか、単に注目を浴びているだけでどうってことないけど……。
登校中も、教室に行く間も、すれ違う人達はオレを見てヒソヒソと噂話をしていた。処分の件が掲示されたのは今朝なのに、何故こんなにも広まっているんだろう。トーガクの情報網、恐るべし。
「おい、あの執行部の一年……」
「ああ、可愛い顔して空手黒帯なんだろ?」
「え、柔道じゃねぇの?」
「合気道の達人だろ? まあとにかく鬼のように強ぇらしいな……」
「朝比奈だけでも怖ぇのに~!」
「で、アイツその朝比奈のオンナらしいぞ」
「マジでぇ!?」
「スーパーで仲良く買い物してるところを見た奴がいるらしい」
「新婚さんかよ!」
「羨ましい!!」
だんだん噂の内容が逸れているというか、濃くなっているような気がする……誰が黒帯とか達人だって?
あ、朝比奈先輩との仲は噂になっても全然嬉しい。ライバルが減るし。
「でも思ってたより友好的じゃない? 噂もさ。やっぱりのんちゃんが可愛いからだろうねぇ~、可愛いは正義っ」
「か、可愛いくはないけど……まあ、この程度なら大丈夫かな。オレが強いって思われてるのは困るけど……」
「じゃあ今のうちに修行しとく? 噂じゃなくて真実にしとく??」
「ええっ! ムリ――!!」
「あはは、冗談だよ~」
最初から自分の可能性を無理だと決めつけるのもいかがなものかと思うが、元不登校のオレには今の生活を維持するだけでいっぱいいっぱいなので、修行なんてハードルが高すぎるのだった。
――昼休み。
「斉賀、山田、俺たちも一緒に弁当食っていいか?」
そう声をかけてきたのは、同じC組の仲良し三人組――オレとすずのように、大体いつも一緒にいる――だった。
そろそろクラスメイト達の顔と名前は覚えてきたけど、こんなふうにお昼に誘われたのは初めてで驚いた。
「もちろんいいよ! 前に一緒に食べようって約束したもんね、上妻君」
驚いて固まってしまったオレに代わり、すずが答えた。オレは首を傾げながら小さくすずに尋ねた。
「前にって……?」
「のんちゃんが熱で休んでた時にもお昼を誘ってくれたんだ。ぼくたちと話してみたかったんだって」
「そうなの? お、お誘いどうもありがとう……」
「おうっ!」
爽やかフェイスでオレに笑いかけてくれたのは、上妻健人君だ。
クラス委員長で、サッカー部に所属しているらしく、よく教室の隅でプロサッカーの話で盛り上がっている。まさにクラスの中心人物って感じだ。(陽キャの頂点ってまさにこんな感じかな……?)
「朝比奈先輩はすっげーコワイけどさ、斉賀は恐くないんだろ? だからもっと話してみたくてさ」
「オレは見た目通りだけど……」
「まじ? 見た目はけっこう怖そうだぞ」
「え、本当!?」
すず以外のクラスメイトとまともに喋るのは、何気に初めてかもしれない。
意外と自分が怖いと思われていたなんて、驚きの事実だった。
すると、上妻君の後ろに居た二人も話しかけてきた。
「改めまして、俺は森哲也! よろしくな~! 漫研所属でアニメと漫画が大好きだぜ!」
「あ、オレも漫画好きだよ……よろしく、森君」
何の漫画が好きなんだろう。あとでゆっくり話してみたいな。
森君は身長はオレやすずとあまり変わらないけど、派手な色のパーカーを制服の下に着ているオシャレさんだから、漫画やアニメが好きなのが少し意外だ……。(また偏見かな)
「俺は一之瀬潤。バスケ部なんだ、よろしく」
「い、一之瀬君バスケ部だったんだ、よろしく……」
一之瀬君は髪型とか制服の着崩しで少しチャラい感じだけど、背が高くて女の子にかなりモテそうな整った容姿をしている。男子校じゃなかったから天下を取れていただろうに……少し勿体ない気が。(余計なお世話だけど)
「じゃあさっそく三人のあだ名つけなきゃね!」
すずがパン、と両手を合わせて楽しそうに言った。
「あ、あだ名?」
「ぼく友達はあだ名で呼ぶ派なの。上妻君はケントだから~ケンケン、森君はテツヤだからてっちゃんね。そんで一之瀬君は~……イッチー!」
「ケンケン、てっちゃん、イッチー」
オレはなんとなく復唱してみた。
「男子からちゃん付けで呼ばれるって新鮮すぎるな」
「おう、山田だから許せるって感じ」
そうなんだ、すずだから許せるんだよね……。
オレもすず以外の男子から『のんちゃん』と呼ばれるのを想像したら、ちょっと背筋がゾワッとする。
「ちなみにぼくは朝比奈先輩からこけしっちという素晴らしいあだ名を拝命されているよ」
「こ、こけしっちィ!? アハハハ!!」
それにしても、さすがすぎる、すず。たった数分でこんなにクラスメイトと仲良くなるなんて、オレのコミュ力を軽く凌駕している……!
「す、すず……のんさん……」
「あ、ちーちゃんいらっしゃい! こっちにおいでよ、紹介するからー」
「お、生徒会の人だな!」
ハルはお昼はいつもうちのクラスまで来てくれて、そのまま教室で食べるか外に移動して食べている。今日はオレたちのところに知らない顔があるせいか、遠くから呼びかけてきた。
「お、俺も一緒でいいんだろうか……?」
「そりゃそーだよ、ぼくたちがいつも一緒に食べてるの知ってるもんね?」
「おう、勝手に斉賀達を誘ってごめんな!」
上妻君の陽キャパワーに、オレと陰キャ仲間のハルもタジタジだ。
「まあまあ、これで三対三だしちょうどいいじゃん?」
「合コンかーい!」
すずの小ボケ(?)に森君が軽快にツッコんだ。出来るひとだ。
「ちーちゃん、左からイッチー、テッちゃん、ケンケンだよ。それでこっちは知ってると思うけど、A組で首席のちーちゃんです」
「すず……そこは本名で紹介しないとハルが困るんじゃない……?」
さすがに最初の紹介であだ名呼びはどうなんだ。陽キャ間ではアリなのか?
「別に本名とかどうでもよくない?」
「ど、どうでもよくはないと思う。え? どうでもいい……のかな?」
「大丈夫、斉賀は間違ってない!」
上妻君に明るく肯定されてホッとした。陽キャの安心感凄い。
すずも冗談だったようで、仕方ないな~と言いながらキチンとみんなを紹介した。
「にしてもさぁ、斉賀がそんなに強いって知らなかったぜ。ホントなのか? 例の噂」
「いや、その……あくまで噂です」
「え、じゃあ2年の先輩に襲われて撃退したってのは?」
「それは……襲われたのは本当だけど、朝比奈先輩が助けてくれて」
オレが襲われたのは事実だと伝えると、マズイことを聞いたと思ったのか上妻君はゴメン、と謝ってきた。(そして森君に小突かれていた)
少し重苦しくなった雰囲気を変えるように、一之瀬君が言った。
「――ところで斉賀と山田って部活何入ったんだ? 東雲は剣道部だろ」
「部活……」
ぶかつ。
「そ、そうだ忘れてたぁ!! のんちゃん、ぼくら部活決めなきゃ!! すっかり忘れてた……! ヤバい、届の最終提出日いつだっけ!?」
そう言えばオレもトーマ先輩に言われてたんだった!
ゆっくり決めろって言われてたけど、ゆっくりしすぎて忘れてた。
「おいおい、提出締切明日だぞ?」
「わ、忘れたままだとどうなるのかな!?」
「強制的に運動部に入れられるらしいぜ、たしか野球部だったかな……」
「えーっ!? 野球のルールとかぼくよくわかんないんだけど!?」
オレも野球にはあまり詳しくないし、別に甲子園を目指したくはない。
これはわりとゆゆしき事態だ。
「じゃあバスケ部においでよ! わりと練習忙しいけど楽しいよー」
一之瀬君が爽やかにオレ達を勧誘した。
「おい潤、勝手に勧誘すんなよ! それなら一緒にサッカーやろうぜ!」
「け、剣道部はどうだ……?」
続いて上妻君と、ハルまで勧誘し始めた。(みんなすぐに部活決めて入っててエライ)
しかしオレはすずと顔を見合わせたあと、同時に言った。
「「放課後、部活見学行ってくるね!」」
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