第五十話 部活動見学

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第五十話 部活動見学

「部活の見学に行きたい~? ノンタンとこけしっち、まだ部活決めてなかったのかよ」  放課後、わざわざ1年の教室まで迎えに来てくれたトーマ先輩に、オレとすずは部活見学に行きたいですと頼んでみた。(ハルが部活で忙しいので、帰りはトーマ先輩がオレたちのボディーガードなのだ)  なんとなく、トーマ先輩がいたほうがスムーズに見学できる気がして。  すず一人でもコミュニケーション的には大丈夫そうだけど……。 「すっかり忘れていまして……」 「ぼくも最初の頃ちょろっと見学しただけで、すっかり忘れていまして……」 「テキトーに楽そーな部活に入ればいいんじゃねぇの? わざわざ見学とかしなくても」 「一応見てみたいんですってば」  中学の頃部活などやっていなかったオレは、部活動に対して少し憧れを持っている。かと言って運動部に入りたいわけじゃないけど。 「しょうがねぇなァ。んーじゃ、安全圏……文化系の部活行ってみっか。手始めに生徒会メンバーんとこでも」 「「お願いします!!」」  オレたち3人は部活見学に出発した。 「――見学? どうぞどうぞ、歓迎するよ!」  まずは生徒会長・橘先輩所属の園芸部へとやってきた。  植物と土の匂いが入り混じった生ぬるい空気が充満しているビニールハウスの中で、園芸用のエプロンと長靴を身につけて土をいじっている橘先輩の姿は、なんだかとても意外だ。  でも不思議としっくり馴染んでいる。 「橘先輩は、どうして園芸部に入ったんですか?」 「ん? それはもちろん、花や植物が好きだからだよ!」 「そうなんですねぇ~」  なんて納得のいく理由なんだ。たしかに生徒会室には植物が多いと思っていたけど、あれは橘先輩の趣味(?)だったのか。  オレは花にあまり詳しくないけど、4月現在はチューリップやヒヤシンスなどのメジャーな花が中庭にたくさん植えられている。  勿論、中庭だけじゃなくて藤堂学院は至るところに花が植えられており、それら全部園芸部の人たちがお世話をしてるんだと思うとなんだか凄い。 「5月になったらバラ園が満開になるから見に行ってみてね」 「バラ園もあるんですか!?」 「裏庭に僕が個人的に作ったんだ。つばめくんのためにね!」 「こ、個人のためにですか……」  なんかすごいなこの人! 今更だけど。  ストレートにつばめ先輩への愛情が伝わってくる、バラだけに。 「本当は藤棚も作りたかったんだけど、色々と予算オーバーでね……」 「橘先輩、本当に花がお好きなんですねぇ。ところでつばめ先輩は同じ部活じゃないんですか?」  オレが気になってたことをすずが聞いた。  キョロキョロと辺りを見渡しても、部員の中につばめ先輩らしき姿は見えない。やっぱり脚が悪いから土いじりは難しいのだろうか。 「つばめくんは虫が死ぬほど嫌いだから……」 「あ、そーなんですね」 「藤棚を作ったらクマバチが大量発生するしね……だから断念したってのもあるんだけど」 「あはは……」  橘先輩はとても残念そうな顔をしていた。  普段はとんでもなく近寄りがたい美形なのに、そんな顔をされるとなんだか身近に感じてしまう。(それはいいことなんだけども) 「まァ今日は見学だけなんで。ノンタン、こけしっち、園芸部はこんな感じだ。次行くぞー」  トーマ先輩が呼んだ。 「「はーい」」 「またいつでも遊び来てね! 入部も大歓迎だよ!」 「「ありがとうございます!」」  ――バラ園かぁ、5月が楽しみだな。  むしろバラ園にたたずむ橘先輩を見てみたいかも。きっと王子様そのものなんだろうな。つばめ先輩はお姫様で。いや、こっちも王子様……か。  トーマ先輩は……なんか悪役っぽいな。そんなところも好きだけど。 「ぼく、少しビニールハウスに酔っちゃったかも……」  ビニールハウスを出たところで、すずの足元が少しふらついていた。 「だ、大丈夫? すず!」 「あの独特の土と植物の充満した匂い、ぼくちょっとダメみたい……実家はビニールハウス栽培してなかったし……」 「こけしっち、大丈夫かよ? 次はつばめンとこに行くぞ?」 「だいじょぶれーす」  少し蒼い顔をしたすずの身体を支えながら、オレたちは校舎に戻った。  中に入ると、すずは幾分か回復したようだった。  空気はともかく、オレも虫系はちょっと苦手だから、園芸部に入部するのは難しそうだなぁ……。  次はつばめ先輩が所属する天文部へ行った。  天文部……天文学って宇宙関係? つばめ先輩は星を見るのが好きなのかな。ロマンチックで美しいつばめ先輩にぴったりだ。 「たのもーう、ちょっと見学させてくれや」  トーマ先輩がノックもせずに勢いよくドアを開けると、カーテンがぴったりと閉じられた薄暗い教室の中に5、6人の生徒が椅子を円にして座っていて、その中につばめ先輩がいた。意外な姿すぎて――まるで怖い話かすべらない話をしているように見えたので――ちょっと引いてしまった。  オレたちの姿を認めると、つばめ先輩は驚いて立ち上がった。 「柊馬と……希と、清白? どうしたの、何か用事?」 「用事っつーか、こいつらがまだ部活決めてねぇから見学したいんだってよ」 「へー、特に見るものはないけど、どうぞ」  どうぞって言ったって……ホントに見るものがないな! ただ教室の真ん中に固まって座ってるだけなんですけど!?  多少本棚に宇宙関連の本と、天体望遠鏡はおいてあるけど……。(それだけが唯一天文学部っぽい部分だ) 「おいおい、天文部はいったい何の活動してんだよ。ただのダベり活動かァ?」  トーマ先輩が質問した。  先輩もこの部活についてはよく知らないらしい。本当に謎すぎる。 「駄弁りじゃなくて議論だ。宇宙の先にはいったい何があるのかっていうね」 「「「……………??」」」  オレたち三人は宇宙ネコ状態になった。  あっ、今背景がとても天文学部っぽい。 「他にも好きな星雲を語り合ったり、木星の目の恐怖感を語り合ったり、宇宙の写真を見てうっとりしたり、文化祭用のプラネタリウムを作成したり。あとは天体観測だね。保護者や学校の許可がいるから年に2~3回しかないけど。まあ活動内容はそんなところかな。希、清白、入部は大歓迎だよ」 「「か、考えておきまーす……」」  天文部見学は、約3分で終わった。 「むっちゃ楽そうだぞ、天文部。お前ら入れば?」 「ぼ、ぼく星雲とか語れるほど宇宙詳しくないですし……興味もそんなに……」 「オレも太陽系とアンドロメダ星雲? くらいしか知らないですし……」  それにしても、つばめ先輩が天体オタクなんて意外だった。ロマンチックで似合う――というのとは対極な感じだったけど。  橘先輩といい、自分らしい趣味を持ってていいなぁと素直に思う。 「んじゃ、生徒会じゃねーけどひばりンとこでも行くか。うちの学校で一番メジャーっつうか全国的にも有名な声楽部だ」 「そういえばエースだって藤堂先輩が言ってましたよね! オレ、それを聞いてからずっとひばり先輩の歌が聴きたかったんです」  あの藤堂先輩をあんなにメロメロしてしまうひばり先輩は、一体どんな声で歌うんだろう。 「ひばりはすげーぞ。声楽部に特待で入ったからな」 「歌で特待生? すごっ」  そんな枠があったのか、さすが私立高校、よくわからない謎枠ある説。  オレ達は音楽室へと向かった。
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