第五十四話 清白、ついでに着飾られる

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第五十四話 清白、ついでに着飾られる

「わぁっ、すず可愛いー!!」  オレと同じようにテツヤ君と佳織さんに飾り立てられたすずが、リビングに戻ってきた。  すずは黒のハイネックに、ジャンパースカートを着させられていた。  ウィッグは地毛と同じ黒髪で、長さは肩下くらいまでのストレートヘア。  赤いヘアピンを付けていて、すごく可愛い。  オレは鏡に映った自分を見てそう思ったけど、すずもまるっきり女の子にしか見えなかった。森姉弟、恐るべし。  でもすずはいつもの笑顔は見せず、恥ずかしいのか俯いていた。 「くうっ、なんか死ぬほど恥ずかしい……自分でも可愛いとは思うけどもっ」 「うん! すず、すごく可愛いよ! ね、ハル」 「あ、ああ……っか、かわ」  ハルは顔を真っ赤にして口元を隠し、すずをじっと見つめている。 「うわ、ちーちゃんがドン引きしてる! ちょっとショックだよ!」 「ひ、引いてなんかない! その、すごく可愛い……と思う」 「ほんと~?」 「本当だっ」  このやりとりもカップルにしか見えない二人だけど、今のところはハルの片想いかな……がんばれ、ハル。  それにしてもすず、本当に可愛い。オレも写真に撮っておこう。 「すずちんものんちんも可愛すぎるし~! のんちんと二人で並んでたらマジで女子二人組じゃんよ」 「なぁお前ら、どっちかその格好で今度俺とも遊んでくれよー、リア充っぽいからー!」 「健人……お前それ、虚しくないか? 確かに山田もめっちゃ可愛いけど」 「うるせー! あー一度でいいから俺も彼女欲しいっ!」  上妻君は普通にカッコいいしモテそうなのに、今まで彼女がいなかったらしい。それはちょっと意外だった。(テツヤ君と一之瀬君も今は彼女はいないけど、女の子と付き合ったことはあるらしい)  佳織さんはオレとすずを並べて、すごく満足そうな顔をしている。  今日もいい仕事したぁ! っていう匠の顔だ。  本当にありがとうございます。 「そういえばのんちゃん、もうそろそろ出かける準備したほうがよくない?」 「あ、ホントだ。急がなきゃ!」  遊んでてつい忘れかけてたけど、オレは今からトーマ先輩とデートだったんだ……! なんか今更ドキドキしてきた!! 「そうだ希ちゃん、相手のことは何も聞いてなかったんだけど、彼の服の系統はどんな感じなの? 服のジャンル合わせたほうが良かったかしら」 「えっ……私服は見たことないからわかんないです。でも多分、強そうな感じかも……です」  トーマ先輩の私服……言われて思い浮かべようとしたけど想像できない。  まさかと思うけど、制服じゃないよね? そうだったらこんなに気合い入れたオレが馬鹿みたいだ。違うと思うけど……! 「強そうな感じの私服? スタッズの付いた皮ジャンとかかしら……」 「朝比奈先輩は確かに私服も強そう~」 「だから意味が分からないのよ、服が強いって」 「ケン〇ロウみたいな感じじゃね?」  あたたたたたた!!!!   いや、ケンシロ〇ではないと思いたい……っ。  待ち合わせ時間は11時で、時計は今10時40分を指していた。 テツヤ君の家からの方が駅は近いので、今から出れば5分前くらいに着きそうだ。  最後の仕上げにゴールドのロングネックレスを貸してもらって――指輪はなくしたら怖いし、イヤリングは痛そうだから遠慮した――テツヤ君の白いスニーカーを拝借してオレのコーディネートは完成した。 「きゃーっ完璧よ希ちゃん! これで落ちない男なんていないわ!」 「もう付き合ってるんですけど……」 「付き合ってても、相手の意外な面を目にしたら何度だって好きになるものでしょう?」 「……!」  なんだか目から鱗が落ちたようだった。  たしかに、オレはトーマ先輩とずっと一緒にいたいから、なるべく飽きられないように努力しなきゃいけないんだ。 そしたらトーマ先輩は、ずっとオレを好きでいてくれるかな……? 「服を返すのは後日でいいからね。それか学校でテツに渡しといて? 着てきた服は月曜日にテツに持たすわ。すずちゃんの分もね」 「そ、それは悪いので月曜日に取りに来ます。――あの、佳織さん」 「なにー?」 「色々とご協力ありがとうございました。その、こんなに可愛くしてくれて……服とか、メイクとか」 「可愛いのは元々でしょ? 私もすっごく楽しかったし。実は私、将来メイクアップアーティストを目指してて専門学校にも行ってるの。だからまた顔貸してくれると嬉しいな~」  なるほど、プロのメイクさんの卵だったのか。  コスプレイヤーだからメイクが上手いと言われるよりも、こっちの説明の方が分かりやすい。  また女装をするかどうか……は、分からないけど。 「そ、それはまた、機会があれば……お願いしますっ」 「うふふ、いつでも声かけてね。今度はメンズメイクさせて~」  そしてオレは、テツヤ君の家を出た。
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