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バイクのエンジンが、足下から心地良い咆哮をあげている。
出掛けに綺麗にみがいたから、この子も気分が良いらしい。
ステンレスの部品は夏の陽射しに抗うかのように反射している。ワックスの効いた濃紺のタンクも深く輝いている。
本当は、こんな暑い日にバイクなんて、と思う。
でも、今日も京都へ足が向いてしまう。
ただ、彼の視線に私が映れば、それでいいと思う。
風を切るTシャツの袖はノースリーブのように捲り上げていて、もろに陽射しを浴びているけど、日焼け対策はバッチリ。
この歳になって肌を焼くバカはしない。
髪もただの黒のロングで良かったと思う。
こんな暑さの中でヘルメットを被っていたら、どんなにキメたって無駄。ヘルメットを脱げばペッタリよ。
ただの黒髪ロングだと、後ろに流せば誤魔化せる。
いつもたか子が、
「なんでバイクが好きなの?」
と、聞いてくるけど、
「だって、好きなものは好きなんだもん」
としか答えられない。
こういうのって、本能が求めているものだから、理屈じゃないのよね。
そんなことを考えているうちに、京都市街に入る。
目的地は右京区。
渡月橋の北の方。
渡月橋を渡って、しばらくして右に曲がってちょっと行って左に入ると、目的の店がある。
店の横の駐輪場に停めると、店の方へ行く。
まずは、バイク屋の方。そこに彼がいる。
「こんにちは」
ぽっかりと空いた店先で、ロードレーサータイプの修理をしていた彼に声を掛ける。
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