安倍マリア

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安倍マリア

 うららかな春の日差しが教室に降り注いでいる。ゆっくりと彼女の前に歩を進めた。彼女を見つめていると思わず胸が高鳴っていく。噂通りの美貌だ。 「あのォ、安倍マリアさんですね」  意を決し教室の最後尾に座っている彼女に声をかけた。  予想以上に綺麗(キレイ)なので声をかけるのも躊躇(ためら)われた。  小学校六年生にしてはヤケに大人っぽく見える。中学二年生のボクよりも遥かに落ち着いて大人の雰囲気だ。  あまりにも美しくオーラを放っているようで近寄りがたい。 「なんでしょう?」  彼女の大きな紺碧の瞳で見つめられるとドキドキしてくる。ミステリアスな感じだ。  今は昼休みなので周りは少し騒がしい。校庭からボール遊びをしている声が聞こえた。  彼女は六年B組の教室でひとり静かに本を読んでいた。  小中高一環の我が校でも、彼女が安倍清明の末裔だと言う噂でだ。 「あのォ、はじめまして。ボクは占部太陽(ウラベたいよう)ッて言います」 「ふぅン……、太陽くん?」  本から視線を外さず気のない返事だ。ボクの方が先輩だが、まるで年下の子をあしらうような口ぶりだ。 「ハイ、折り入って占い師の安倍さんにお願いがあるんですけど」 「マリアと呼んでください」 「えッ?」 「出来ればマリアと呼んでいただけますか」 「ああァ、ハイ、マリアさんですか」 「断っておきますが、学校内で占いは禁止されていますよ。教室内でタロットカードを出すと没収されますから」 「あ、そうですね。もちろん解ってます。放課後で結構ですので時間があれば、宜しくお願いします」 「ン、そうですね。どういった要件でしょうか」 「ええェッと、ボクの叔母(おば)のことなんですけど」 「叔母(おば)様ですか?」 「あ、まァ、叔母(おば)さんと言うと怒るので、普段は『姫香さん』と呼んでいるんですけど、彼女は父方の妹なんですが、かなり父とは歳が離れていて女子大を卒業したばかりなんです」 「そうですか」 「実は姫香さんにはフィアンセがいたんです」 「ンうゥ、とは、過去形ですね」 「あ、ハイ。そうです。そのフィアンセが、急にワケも言わず別れを切り出して来たと言ってきて。そのワケを知りたいとマリアさんに……」 「占ってほしいと言うのですか?」 「ええェ、たん(てき)に言えばそういうことですねえェ」 「わかりました。放課後でよろしければ、その姫香さんの所へご一緒しましょう」  安倍マリアは軽くうなずいて微笑んだ。 「ハイ、よろしくお願いします」  快く占いを引き受けて貰い助かった。  こうして、ボクは安倍マリアとの初対面を終えた。
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