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ところで、鬼というのは、基本的に、食事は必要ないらしい。
「全き虚空でなければ、気の中より生気を補えるのです。……まあ、快楽のために、飲食をするものが無いわけではありませんが」
酒を好む鬼は多いです。若い女を喰ったりも……そこまでつぶやいて、クサブキさんは我に返ったように私を振り向く。
「これは失敬」
私はもちろん、ドン引きしていた。
そう、彼は、鬼なのだ。鬼は、人を食べたり、するものなのだ、やっぱり。
「アマネ殿をそのような対象としてみたことは、ございませんよ」
クサブキさんは明らかに焦っている。
「私は、人を喰らう趣味はないのです、昔から」
そう、初めの日、強制送還されてうやむやになってしまったが、私にははっきりさせなければいけないことがあった。
「私は、贄だとおっしゃいましたよね」
私は思い切ってもう一度、彼にその言葉を投げかける。
「私はこれから、どうなるのでしょう。どうして、新月と満月の夜の度、私はここに送り込まれるのでしょうか」
クサブキさんは、黙って私の顔を眺める。
少し、困っている。今の私にはそれが分かった。
「私が供物を供される妖の類だということは、お話いたしましたね」
やがて、静かな声で、クサブキさんは話し出した。
「ここ一年(ひととせ)ほど、外界では疫病が蔓延っているのです」
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