如月 新月 鬼の食べ物

3/6
前へ
/89ページ
次へ
 ところで、鬼というのは、基本的に、食事は必要ないらしい。 「全き虚空でなければ、気の中より生気を補えるのです。……まあ、快楽のために、飲食をするものが無いわけではありませんが」  酒を好む鬼は多いです。若い女を(くら)ったりも……そこまでつぶやいて、クサブキさんは我に返ったように私を振り向く。 「これは失敬」  私はもちろん、ドン引きしていた。  そう、彼は、鬼なのだ。鬼は、人を食べたり、するものなのだ、やっぱり。 「アマネ殿をそのような対象としてみたことは、ございませんよ」  クサブキさんは明らかに焦っている。 「私は、人を喰らう趣味はないのです、昔から」  そう、初めの日、強制送還されてうやむやになってしまったが、私にははっきりさせなければいけないことがあった。 「私は、(にえ)だとおっしゃいましたよね」  私は思い切ってもう一度、彼にその言葉を投げかける。 「私はこれから、どうなるのでしょう。どうして、新月と満月の夜の(たび)、私はここに送り込まれるのでしょうか」  クサブキさんは、黙って私の顔を眺める。  少し、困っている。今の私にはそれが分かった。 「私が供物(くもつ)を供される(あやかし)(たぐい)だということは、お話いたしましたね」  やがて、静かな声で、クサブキさんは話し出した。 「ここ一年(ひととせ)ほど、外界では疫病が蔓延(はびこ)っているのです」
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加