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如月 満月 月下の笛
『ぐみ』
ぶほ。私は思わずベッドの中で噴き出す。
クサブキさんは、あれから毎日、私に文字を送ってくれている。女手、というのは、ひらがなのことらしい。彼の、ものすごい達筆で書かれたひらがなの単語たちは、時々、結構な破壊力を示す。
ぺんぎんのうお きたり
とか、うれしい報告も送ってくれる。
ここ数日は、あるぱか、かぴばら、ぺんぎん、と来たので、今日は何かなと思っていたら。
(よっぽどグミが気に入ったのかな)
明後日の満月の夜には、違う味のを持って行ってあげよう。
孫にお菓子をあげたがるおばあちゃんの気持ちが分かるわー。
私はしみじみと、薄れていく文字を眺める。
*
翌日の夜に現れた文字は、異変を告げるものだった。
これまでにない文字量と、崩れたひらがなに、私は胸騒ぎを抑えて読み進める。
あらたなるしょうるいきたり
てあしほそくながく
かぎづめあり
うごかず
しんのぞうのうごきわずかなり
(これだけじゃ、何の動物か分からない。でも、心臓の動きが悪いって、まずいんじゃ)
私は唇をかむ。
今、私から、クサブキさんに連絡を取ることはできない。
どうしたら良いのだろう。
(でも、これまで来た動物たちはみんな、元気で栄養状態も良かった。どうして今回だけ)
そこで私は、ふと思い当たる。
(かぎづめ……もしかしたら)
もし、私の予想が当たっているなら、希望が持てる。
私は、大急ぎで調べ物を再開する。
(お願い、そうであって)
あの結界の中で、一人で動かない動物と向き合っているであろうクサブキさんを思うと、私の胸はキリキリする。
夜が来るのがこれほど遅いと思ったのは、初めてだった。
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