弥生 新月 人の住処

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「……いいわー」  コタツに足を入れ、私は思わずつぶやく。  やっぱり、日本の家で落ち着くと言ったら、これよね。 「これは、いみじ」  クサブキさんも足を入れ、しみじみとつぶやいている。 「やはり、千の年月は、侮りがたし。かような調度があろうとは」  身振り手振り、最終的には図解までして、何とか10畳一間の、畳のある部屋が出来上がった。作ってもらったコタツは、だいぶ大振りだ。向かい合ったクサブキさんまでは、だいぶ距離があって、足がぶつかるなんてことは、なさそうだった。  コタツの下には、岩の中を熱めのお湯が流れている。その上に板の間、畳を乗せて、毛皮を敷くという寸法だ。床暖房+コタツという、革命的な快適空間が出来上がった。  もっと早く、気がつけばよかった。もう、3月も半ばというのが返す返すも残念だ。 「むう、これは……」  クサブキさんが何かを思案し、パチリと指を鳴らす。  途端に、私とクサブキさんの間に、カピバラが現れる。  クサブキさんがコタツの掛け布をめくると、カピバラはとことことコタツの中に入っていく。やがて、くるりと向き直り、掛け布から顔だけ出してうずくまると、目を閉じた。  こたつカピバラ。  控えめに言っても、死ぬほどかわいい。 「みやびも、入れてやりたいが、茹だりそうだ」  クサブキさんがつぶやく。  先日やって来たミツユビナマケモノが、クサブキさんはいたくお気に入りらしく、(みやび)という名前を付けていた。  ほんのちょっとだけ食べる餌は毎日手ずから与えているらしい。  ナマケモノは、結構人になつく動物らしく、クサブキさんを見つけると、寄ってこようとする姿が愛らしい。とにかくものすごくゆっくりなので、なついていることにも、しばらく気づけなかったが。 (ああ、極楽だわ。……あと、足りないものと言えば、やっぱりあれよね)  次の満月の夜には、ミカンを持って来よう。  ぬくぬくとコタツで暖まりながら、私は心に決めていた。
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