卯月 満月 恋文

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卯月 満月 恋文

 平安貴族は、恋愛も仕事の内だったというが、それは、ものすごく説得力のある話だ。  毎日、クサブキさんから送られてくるお手紙を開いては、私はしみじみと思う。  ぐみ、なんて書かれていたころが懐かしい。  紙面はいつも、びっしりとひらがなで覆われている。  動物たちの近況報告などは、文字が解読できさえすれば、内容は何となく理解できる。  問題は、和歌である。  はっきりいって、ちんぷんかんぷんだ。  まず、なぜか和歌の部分の文字は、つながって書かれていて読みにくい。  昔からの習慣で、そうなってしまうらしい。  万一読み取れたとしても、内容がまた、全く理解できない。  オリジナルもそうでないものも贈ってくれているらしいが、本当に申し訳ない気持ちになる。 「私の、気持ちなので。ご無理なさらず、捨て置いていただければ、良いのですよ」  クサブキさんはそう微笑むが、私はいつも、手紙を読まずに食べ続けるヤギの歌を思い出してしまう。  子供心に、あれほどひどい行為はないと思っていた。  自分がそれをしていると思うと、本当に心が痛む。  加えて、まだ問題がある。  古文の授業で習った、恋愛ものの和歌を思い出してみてほしい。あれが、自分に向けられた歌だと思ったら、どうだろうか。  J-POPの歌詞も真っ青の破壊力である。  自慢ではないが恋愛経験が皆無に等しい私には、とにかく、強烈すぎる。  もちろん、毎日手紙を贈ってもらえるなんて、とってもありがたいしうれしいのだが。  その道のプロといったクサブキさんの甘い攻撃に、全体的に私は、いっぱいいっぱいだった。
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